IBD専門クリニックの院長に聞いてみた。大きな病院とココが違う!
医師インタビュー | 2024/8/20 更新
学生さんや働き盛りの年代が多いIBD患者さんの中には、病状が落ち着いてきて「クリニックで診てもらいたいな」と思っている方も少なくないのではないでしょうか。一方で、「大学病院で受けてきたのと同じ治療をクリニックで受けられるの?」と不安に思っている方もいる様子…。そこで今回は、IBD専門開業医の会「Specialists of Private Clinic」に加盟されている、ひだ胃腸内視鏡クリニック院長の樋田信幸先生に、IBD専門医のいるクリニックでの診療について、詳しく伺いました。
もくじ
病院とクリニックでのIBD診療、大きく異なる点は?メリット・デメリットも
――IBD専門医のいる大学病院、地域の拠点病院、クリニックの一般的な違いを教えてください
病院とクリニックの最も大きな違いとして、多くのクリニックでは入院対応ができないということが挙げられます。また、最近ではCT・カプセル内視鏡・小腸内視鏡検査まで行えるIBD専門クリニックもありますが、一般的には病院に比べるとできる検査が限られている場合が多いと思います。
また、IBDは腸管外合併症などが生じた際に他科との連携が必要になる場合や、栄養士・心理療法士・ソーシャルワーカーといった他職種のサポートが必要になる場合があります。そのようなケースでは、クリニックよりも病院の方が患者さんのニーズに応えることができるでしょう。
大学病院は、IBD診療における最後の砦といったイメージです。私は兵庫医科大学に長年在籍していましたが、病状がかなり複雑化した方、重症・劇症の方など、どのような状態のIBD患者さんにも対応できるのが強みだと思います。また、IBDの手術は消化器の中でも特殊ですので、例えば地域の拠点病院の内科で診てもらう分には問題がなくても、いざ手術が必要になった場合には拠点病院の外科では対応できず、大学病院への転院を余儀なくされるようなケースは多々あります。
その一方で、外来で行う治療の内容に関しては、大きな違いはないと思います。
――クリニック診療だからこそのメリットは、どのようなものがありますか
私自身、大学病院に長く在籍していましたので、大学病院ならではの強みがわかる一方、弱みの部分も多々感じていました。例えば、患者さんの待ち時間。採血するのに1時間待ち、点滴治療を受けるのにまた1時間待ち、その後の外来でさらに待ち…1回の外来診察が患者さんにとっては1日仕事になるということも珍しくありません。サービスの質や組織間の連携については、規模が大きくなるほど向上するのが難しい面があります。例えば、看護師は外来、病棟、点滴室などの各部署で担当が異なるため、患者さんの情報の共有や部署間の連携が十分でないこともあります。個別対応ついても、クリニカルパス(疾患ごとに標準化された診療計画)に沿って大筋が決まっているため、患者さんの事情に応じてフレキシブルに変えることは簡単ではありません。また、患者さんによっては決まった曜日に通院することが難しい方もおられます。診療する医師がいつも違うので、毎回病状を1から説明するような事態になり、誰が主治医かわからないといった声も聞かれます。
その点、クリニックは待ち時間が短く、組織内での情報共有や連携が密にできており、いつ受診しても担当医師が変わるようなこともありません。
IBDの患者さんは学生や働き盛りの若い方が多いため、土曜日の診療ニーズが高いのが特徴です。大きな病院では土曜日のIBD診療に対応していないことが少なくありませんが、IBD専門クリニックでは土曜日に外来診療、生物学的製剤による治療、内視鏡検査などに対応しています。これらは大きな強みだと思います。
また、クリニックでは診察の時以外にも受付時や採血、点滴の際などスタッフが患者さんのお話に耳を傾ける機会が多くありますので、仕事や趣味、家族構成といった病気以外の情報を知ることができます。これらの情報は、個々の患者さんに最適な治療を選択するうえで、非常に役に立っています。
クリニックのメリットを得やすい人は?小児IBDや妊娠希望者も診てもらえる?
――クリニックでメリットが得られる患者さん、反対に診るのが難しいのはどんな患者さんなのか教えてください
お仕事や学業などの都合で決まった曜日に通院することが難しい患者さんは、最もクリニックのメリットが得られると思います。また、定期的な投与を要する生物学的製剤の治療を受けている患者さんの場合、急な出張や感冒(かぜ)などで受診できなくなった際に、大学病院などの大きな医療機関ではすぐに別日へ変更することが難しいことがあります。その点、クリニックにおいては、フレキシブルに対応することができています。
反対にクリニックで診ることが難しいIBD患者さんとしては、重症度が高い方、肛門病変や腸に狭窄がある患者さんなどが挙げられます。他には、関節・皮膚・眼の病変など他科と連携して診るべき腸管外合併症をお持ちの患者さんについては、病院でまとめて診てもらう方が、薬を変更する際などにもスムーズだと感じます。
――クリニックで小児IBDや、妊娠希望者・妊婦は診ていただけますか
小児のIBD患者さんにどこまで対応できるかについては、個々の医師の経験によるところが大きいと思います。私のクリニックでは、小学校高学年~中学生くらいのIBD患者さんであれば、診療を行っています。一般的な小児科のクリニックでは小児のIBD患者さんを診ているケースはほとんどないのではないかと思います。私で対応できる範囲の小児IBD患者さんであれば、できるだけ診ていこうと考えています。
妊娠に関しては、病状が落ち着いている方であればこれから妊娠を希望される方はもちろん、妊娠中や産後もクリニックで対応できます。万が一、クリニックで対応しきれないような症状が出た時は、速やかに産婦人科とIBDの専門医がいる病院を紹介します。
クリニックを選ぶ際にはここをチェック!行えない治療はある?
――クリニックを選ぶ際に、IBD専門医がいること以外にチェックすべき点があれば教えてください
患者さんが最も心配されているのは「いざという時に病院と連携が取れるのか?」という点だと思います。まずはクリニックのホームページに連携している病院が書かれてあるかどうか、また、連携先の病院がIBDを専門で診ている病院なのかということを確認してみてください。
また、「自分のライフスタイルに合った診療が受けられるのか?」という点も重要だと思います。クリニックの診療時間がご自身の都合とマッチしているかをチェックしましょう。IBD専門クリニックの中には夜遅くまで診療しているところや、日曜日にも診療しているところもあります。それらを考慮しつつ、ご自身が現在受けている治療、あるいは今後受けるかもしれない治療について、クリニックでどこまで対応ができるのかを調べられるとよいと思います。
クローン病の患者さんは、肛門の病変にお悩みの方も多いと思います。IBDの専門医であっても内科医の場合は肛門病変の悪化に対応できない場合がありますので、そういった点もチェックしておいた方がよいでしょう。
――患者さんが「手術(検査)を受けるなら○○病院が良い」と希望された場合、先生がその病院をよく知らない場合でも連携は可能ですか
どこの病院でも紹介することは可能です。まずは遠慮なくご相談ください。
――クリニックでセカンドオピニオンを受けることは可能でしょうか
私のクリニックでは、特にセカンドオピニオン外来という設定はしていませんが、「今、〇〇病院で治療を受けているのですが、治療が上手く行っていなくて…」といった相談がメインで診察に来られる患者さんもおられます。その結果、私のクリニックに移ってこられる方もおられますし、私の意見をかかりつけの病院にそのまま持ち帰る方もおられます。
今の治療に不安がある場合には、一度IBD専門クリニックで診療を受けて意見を求めてみるのも良いかもしれません。
――クリニックでは行えない治療はありますか
当院では「血球成分除去療法」は行うことができませんが、他の内科治療に関しては、生物学的製剤の投与も含めて全て対応可能です。
クリニックの規模や方針によって行う治療の範囲はさまざまで、血球成分除去療法を得意としているクリニックもあります。対応可能な治療については、ホームページに掲載されていることが多いと思いますので、ご確認ください。
――例えば、生物学的製剤などはたくさんの種類がありますが、そのような治療を受けている方がクリニックに転院する場合、以前と同じ薬を継続して使うことは可能ですか
IBD専門クリニックでは、ほとんどの場合は対応可能だと思います。ただし、生物学的製剤は非常に高額なお薬でもありますので、クリニックに常にストックがあるとは限りません。現在投与中のお薬の内容および投与の予定日について、事前にクリニックにお伝えいただいたうえで、ご相談いただけると幸いです。
――クリニックだと栄養指導がしてもらえなかったり、指定難病医療費助成制度について教えてもらえなかったりするなどの声も聞かれますが、これらについてはいかがでしょうか
クリニックであっても、管理栄養士がいて栄養指導に力を入れている施設もあります。また、例え栄養士がいなくても、食事に関する質問については、IBDを専門に診る医師であれば大抵のことには答えられると思います。
クリニックに受診されるIBD患者さんは、一般的にクローン病よりも潰瘍性大腸炎の方が多いと思います。外来で診ている潰瘍性大腸炎の患者さんは比較的病状が落ち着いている方が多く、厳密な食事制限の必要がない方がほとんどです。特に最近は、薬物による治療が進歩しており、専門的な栄養指導を必要とするIBD患者さんが減ってきているように思います。
指定難病医療費助成制度については、IBDを専門的に診るクリニックの受付の方であれば、内容をしっかり把握されているのではないでしょうか。当クリニックの受付は、最初は難病に関する知識が全くない状態からのスタートでしたが、今では患者さんの管理表をみて「軽症高額」や「高額長期」に該当するかどうかまでチェックし、患者さんにアドバイスを行っています。
IBD専門開業医の会「Specialists of Private Clinic」とは?
――寛解中や軽症でクリニックに通われている患者さんもいるかと思いますが、落ち着いている時でも注意すべきことはありますか
IBDは落ち着いていても、何らかのきっかけで突然再燃する可能性がある病気です。特にストレスは再燃の引き金になることが多いため、日頃の診療において、仕事や家庭での悩み事や、ストレスの発散方法について伺うようにしています。
さらに、最近では寛解期の患者さんに対してバイオマーカーでモニタリングすることがトレンドになっています。私のクリニックでは、寛解期の潰瘍性大腸炎の患者さんに対して便中カルプロテクチンを定期的に測るようにしています。実際に、自覚症状はほとんどないのに便中カルプロテクチンの数値が急に上がってくる患者さんがおられます。「数値が上がってきているから食事や体調に気を付けて、悪くなったら早めに来てね。」「薬をちゃんと飲んでね。」といった注意喚起やアドバイスをあらかじめお伝えすることで、多くの患者さんの寛解を維持することができています。
――先生が所属されているIBD専門開業医の会「Specialists of Private Clinic」について教えてください
IBD患者さんをクリニックで専門的に診ている全国の開業医が集まり、IBD診療に関する情報交換を行う会です。研究会を開いたり、定期的にオンラインでディスカッションをしたりしています。また、会の中で「地域ごとの会員リスト」が共有されており、患者さんが転居されるような場合でも、IBD専門医のいるクリニック同士でスムーズに紹介し合うことが可能です。
医療の進歩で、患者さんが治療を受ける病院を「選ぶ」時代に
――IBD患者さんにメッセージをお願いします
IBDの治療は劇的に進歩を遂げており、たとえ難治であっても、多くの患者さんが外来で治療できるようになりました。外来で行う治療に関しては、大学病院でも総合病院でもクリニックでも、ほとんど変わりはありません。
IBD患者さんを専門的に診ることができるクリニックは全国で増えてきており、患者さんは治療を受ける「場所」を選べる時代になりつつあります。患者さんにとっての「良い治療」とは、その患者さんに合った適切な治療が受けられるということだけではありません。通院のしやすさ、検査の受けやすさ、気軽さ、話しやすさ、きめ細やかな対応など、病院にはないクリニックならではの強みもありますので、クリニックでのIBD治療を選択肢の一つに入れていただければ嬉しく思います。
(IBDプラス編集部)
1995年5月 兵庫医科大学 内科学第4講座
1997年7月~1998年8月 英国リーズ、St. James’s University Hospitalに研究留学
2001年3月 学位(医学博士)取得
2001年4月 兵庫医科大学 消化器内科 助手
2010年4月 兵庫医科大学 内視鏡センター 講師
2014年4月 兵庫医科大学 炎症性腸疾患学講座内科部門 講師
2017年4月 兵庫医科大学 炎症性腸疾患学講座内科部門 准教授
2020年9月 ひだ胃腸内視鏡クリニック 院長
〈資格・所属学会〉
日本内科学会(認定医・指導医)
日本炎症性腸疾患学会(専門医・指導医)
日本消化器内視鏡学会(専門医・指導医)
日本消化器病学会(専門医)
胃腸科(専門医・指導医)
日本消化器病学会(評議委員)
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