正しく理解してる?身近なIBD治療薬「ステロイド」について学ぼう!

医師インタビュー2024/6/14

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最も古くから使用されているIBD治療薬の一つであるステロイド。「身近な薬」「調子が悪くなった時の助けとなる薬」「副作用が怖い薬」など、使用する人によって印象はさまざまですが、それは一体なぜなのでしょうか?また、これだけ多くのIBD治療薬が登場した今もなお使われる理由は?多くの疑問について、辻仲病院柏の葉 消化器内科・IBDセンター 部長・センター長の竹内 健先生が丁寧に教えて下さいました。

    

ステロイドの副作用、正確には「免疫を抑制する」ほかの作用

――ステロイドとはどのような仕組みで働く薬なのでしょうか

ステロイドとは一般的にグルココルチコイドのことを指します。副腎皮質(副腎の外側)から分泌される人間の身体にもともとあるホルモンの一種です。そのホルモンとしての役割の一つに、IBD治療で期待される「免疫を抑制する」という作用があります。

ステロイドが解熱鎮痛薬などの日常的に使っている薬と大きく異なるのは、免疫抑制に加えて、電解質や骨の代謝など、他の部分にも作用する点で、それが結果として「副作用」と呼ばれる症状につながります。つまり、ステロイドの副作用は、副腎皮質ホルモンにもともと備わっている効能とも言えるのです。

――ステロイドのメリット・デメリットを教えてください

メリットとしてはまず、「非常に歴史のある身近な薬」であることが挙げられます。免疫をここまで強力に抑制する薬は20~30年前までほとんどありませんでした。一方、その頃はステロイドに頼らざるを得なかったという部分もあり、長期間使っていたという方も少なくないと思います。しかし、今は多くの医師がステロイドの効能に関して十分な知識を持っていますし、適切に使えばきちんとした効果を発揮してくれる薬であることもわかっています。言い換えると、ステロイドは特性を良く知ったうえで、上手に使うことが大切なのです。ですから、デメリットに関しては、ステロイドそのものにあるというよりも、使い方によってはデメリットが生じる可能性がある薬と言えるでしょう。

――ステロイドは副作用が出やすいと言われますが、本当でしょうか

ステロイドはホルモン剤なので、治療目的で薬剤として投与すると、体内では通常よりも過剰な状態になります。長期的に投与を継続すると特に、骨の代謝にも影響しますし、本来期待される免疫抑制効果は、短期間の投与でも感染症を引き起こす原因になります。だからこそ、適切な量を適切な期間だけ使い、目的が達成された場合は(あるいは達成されなくても)、速やかに減量することが重要だと考えます。

――「医師からは、まだ使って大丈夫と言われているが、不眠などステロイドが原因と思われる症状がつらい」という声も聞かれます。先生はどのようにお考えですか

ステロイドの使い方に関しては、厚生労働省の研究班などが「標準的な使い方」を設定しています。一方、最大用量をどうするか、減量をどのように行っていくかということに関しては、施設・医師・患者さんによって使い分けされているのが現状です。そのため、ステロイド剤の反応は年齢や病状など、個々の患者さんによって異なる場合があり、同じ用量を使っても、患者さん一人ひとりの反応は全く同じではありません。ですから、「この量で開始する」というのはあくまで一つの目安であり、絶対的にこの用量、この減量の仕方という決まりがあるわけではないのです。

不眠に関してお答えすると、ステロイドホルモンは通常、午前中に一度分泌のピークを迎えて体の代謝が上がり、夜に近づくにつれて血中濃度が下がり、身体の活性も落ちて休息モードになります(サーカディアンリズム、概日リズム)。ステロイドはサーカディアンリズムに則って、午前中にピークになるよう使用することも多いのです。しかし、特に潰瘍性大腸炎の患者さんは夜間におなかの調子が悪くなることが多く、トイレの回数や出血量が増え、発熱する人もいます。そうなると眠れなくなってしまうため、夜間もステロイドの効果が出るような投与の仕方をすることもあります。

そうすると、当然「不眠」や「興奮しやすい」という症状の出る方がおられますので、担当医は起こり得る症状について事前にきちんと説明することが大切です。しかし実際には、感染症や糖尿病などの重篤な副作用しか説明されていないことが多くあります。ですから、まずはステロイドで起こる症状は、副作用というよりも免疫を抑制するとともに薬剤の作用としてついてくる現象であるとご理解いただき、眠れない場合は睡眠導入剤などを使用することも一つの手段と考えていただければと思います。

「局所製剤だから全身への影響は少ない」は大間違い

――ステロイドの経口薬と点滴の使い分けについて教えてください

経口薬に関しては「食事が取れて、薬が飲めるか」ということをまず考えます。特にプレドニゾロンは消化管からの吸収がとても良いので、飲み薬として投与しても問題ないと考えます。一方、夜間にもステロイドの成分をしっかり行き渡らせたい場合は、24時間の点滴静注で一定量を投与していきます。また、50~60mgと大量に使う場合は点滴で投与することが多いです。しかし、これはかつて行われていたステロイドのパルス療法とは異なります。IBDに関してパルス療法は長期的にも効果が認められないことがわかっていますので、現在は行われません。

――局所製剤に関してはいかがでしょうか

局所製剤(注腸剤、注腸フォーム剤、坐剤など)をメインで使うのは、直腸炎型あるいはS状結腸くらいまでの炎症を持つ患者さんです。当院でよく使っているのはブデソニド注腸フォーム剤です。粘膜への薬剤の浸透がとてもいいですし、病変を比較的広めにカバーできます。また、アンテドラッグといって、粘膜で炎症を抑えた後に肝臓に行くと8割から9割くらいが代謝されるため、全身への影響が少ないという特徴があります。あとはメサラジンの坐剤もよく使っています。この2つを使っても効果が見られない場合は、他の薬に切り替えることが多いですね。

ただ、誤解されている方が多いようですが「局所製剤だから全身への影響は少ない」というのは、使い方によっては間違いとなります。局所製剤を漫然と使えば、経口薬などと同じように副作用が出ます。使い方に関しても、朝晩など、決められた時間に決められた期間を継続して使っていただきます。たまに頓用している患者さんがいますが、このような使い方をしていると十分な効果が出ないだけではなく、血圧が上がったり、肝障害などの副作用だけが起こるだけのこともあるので注意が必要です。

――ステロイド使用に際して、特に注意すべき副作用は何ですか

短期的に一番心配しなければならないのは免疫低下による「感染症」です。また、女性や思春期のお子さんが気にする副作用としては「挫創(にきび)」「中心性肥満(満月様顔貌など)」「多毛」などが挙げられます。にきびに関しては、顔などの症状がひどい患者さんは皮膚科での治療をお勧めすることもあります。

また、不眠や気分の高揚(減量時は落ち込み)という症状もあるため、メンタルクリニックで治療を受けている方や、躁うつの傾向がある方は注意する必要があります。とはいえ、抗うつ剤を投与することになった患者さんは、私の経験上ではほとんどいらっしゃいません。過去にうつ病の既往があるような方は、ステロイドが効いたとしても早期に減量しなければならない場合もあるので、主治医の先生にうつ病の既往があることを伝えておらず、メンタル面で不調があるような人は、早めに伝えていただけたらと思います。

ステロイドの大量投与に関しては、特に高齢者では感染症に、成長期のお子さんでは骨の成長に影響が出やすいため、注意が必要です。また、妊娠初期の大量投与は、赤ちゃんに口蓋裂などが起こる頻度が少し上がるとされています。一方、長期投与では成長障害だけではなく、骨粗鬆症による骨折や、糖の代謝障害による糖尿病が発症することにも注意が必要です。

しかし、これらのことを過度に気にして、ステロイドのメリットを享受することなく最初から使わないというのは問題です。医師にとって、ステロイドは治療効果のマーカー的な役割も持ちます。ステロイドを使ったときの反応が、次の治療の見極めに役立つことがあるのです。

また、成長障害はステロイドの影響や栄養障害でも起こりますが、炎症が原因となる場合もあります。炎症が持続すると、骨の成長に影響が出るのです。成長期に炎症が持続し骨の発育が抑制されてしまうと、後から取り戻すことはできません。ですから、できるだけ早く炎症を抑える必要があり、そのためにステロイドが選択される場合もあることをご理解ください。

ステロイドの効能を最大限に引き出す正しい使い方とは?

――ステロイド依存性/抵抗性に「なりやすい(なりにくい)人」というのはありますか

患者さんによってステロイドの反応は異なります。ステロイド抵抗性は「30~40mg以上使っても全く反応しない」ケース、ステロイド依存性は「ステロイドは効くけれど、減量あるいは中止すると悪化してしまうケース」を指します。

 

これらは、ごく限られた人に起こると思われるかもしれませんが、実際には初回の少量のステロイドで十分な効果が認められ中止後も寛解状態が持続する一部の患者さんを除き、ステロイド剤による治療を必要とする患者さんの多くは、ステロイド依存性やステロイド抵抗性といった、いわゆる難治性となることも少なくありません。現在は、ステロイド剤以外にもさまざまな治療法が開発され、実用化されていますのでご安心ください。

――ステロイドとIBD治療薬との併用について教えてください

ステロイドが十分に効かないため次の治療に移行する際、ゆっくり減らした方が良いという声もあるようですが、効果がないと判断したら、個人的にはステロイドによる感染症を引き起こさないためにも、できるだけスピーディーに減量すべきだと考えます。例えば、最初にステロイドを50mg以上使って効果がない場合、1週間程度の使用であれば速やかに減量・中止しても大きな問題はないと思います。

特に、ステロイドと他の薬を併用すると感染症の頻度が上がることがわかっていますし、大量ステロイドによる肝障害などの副作用も比較的多く出るので注意が必要です。これは相性というよりも、使い方の問題ですね。

これとは別に、「ステロイドの効果を下げてしまう使い方」というのがあります。IBD治療薬で該当するものはありませんが、一部「抗てんかん剤」など、併用してしまうとステロイドが効きにくくなる可能性があります。IBD以外の治療も受けている方は、一度主治医の先生に聞いてみるのもいいかもしれません。

――ステロイドに関して「怖い薬」という声もよく聞かれますが、先生はそのような患者さんにどのような説明をされていますか

ステロイドには何十年という歴史があります。そのため、他の薬に比べ十分なデータがありますし、医師の豊富な使用経験もあります。確かにある程度の副作用が出ることもありますが「どんな副作用が出るのか」ということに関しては多くの医師が熟知しており、経験上もわかっています。また、いたずらに長期間使わなければ、多くの副作用は使用中止により消失する一過性のものです。むしろ、最近出てきたばかりの薬よりも、そのような意味では安心と言えるのです。言い換えると「新しい薬は、これから何年後かに新たな副作用が出てくる可能性がある」わけです。ステロイドは使い方さえきちんとすれば、決して怖い薬ではありません。また、副作用が出てしまっても、減量・中止すれば症状は消失するということもお伝えしています。

基本的にステロイド剤は適切な場面で適切に使えばとても良いお薬なので、必要以上に怖がる必要はないと考えます。それよりも、飲むタイミングや回数は、医師に言われた通りにしてください。いたずらに怖がるよりも「正しく使うこと」こそが、ステロイドの効果を最大限に引き出し、副作用を最小限にするために必要なことだと考えます。

もっと簡単に治療できる日が必ず来ると信じて

――IBD患者さんにメッセージをお願いします

IBD患者さんは国内に約30万人いると言われていますが、私が医師になって1年目の頃はまだ本当に希少な病気でした。医師1年生の研修医の時に、4人の患者さんを担当させていただいたことをよく覚えています。それが今こうして1,600人もの患者さんを抱えるIBDセンターで療するようになるとは、私自身想像もしていませんでした。今や、IBDは誰もがなり得る病気になりつつあります。

かつては薬の種類も少なく、クローン病患者さんにおいては長期的な入院のもとで経鼻経管栄養法や中心静脈栄養(IVH)が行われることが珍しくありませんでした。しかし、今は多くの患者さんが外来治療のみで、日常生活が送れています。ここ10年くらいの間に、ものすごい速度でいろいろな薬剤・治療法が開発され、検査のやり方も変わってきています。

ですから、どうか絶望的な気持ちになって落ち込むのではなく、IBDは「適切な治療でコントロール可能」な病気になってきているということをご理解いただき、ご自身のこの病気に向き合っていただけたらと思います。私自身、もっと簡単に治療できる日が必ず来ると信じていますし、これからも患者さんたちに寄り添っていきたいと思っています。

(IBDプラス編集部)

竹内先生
辻仲病院柏の葉 消化器内科・IBDセンター 部長・センター長
竹内 健先生
1989年 浜松医科大学医学部医学科卒業、第一内科研修医
1990年 富士宮市立病院内科
1997年 浜松医科大学医学部大学院卒業、博士号取得
1997年 浜松医科大学医学部附属病院第一内科医員
1997年6月 浜松みなみ病院内科医長
2002年 Guy’s, King’s and St Thomas’ School of Medicine, King’s College London, London University, Research fellow
2006年 浜松南病院 消化器病・IBDセンター 副院長
2010年 同院 消化器病・IBDセンター 副センター長
2012年 東邦大学医療センター佐倉病院 内科学講座消化器内科分野 講師
2019年4月 医療法人社団康喜会辻仲病院柏の葉 消化器内科・IBDセンター 部長・センター長

〈資格・所属学会〉
日本炎症性腸疾患学会(代議員)
日本消化器病学会(専門医・指導医・学術評議員・支部評議員)
日本消化器内視鏡学会(専門医・指導医・社団評議員・支部評議員)
日本消化管学会(胃腸科専門医・代議員)
日本カプセル内視鏡学会(専門医・指導医)
日本小腸学会(評議員)
日本大腸検査学会(評議員)
日本内科学会(認定医)

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