知っておきたい「JAK阻害剤」それぞれの特徴とメリット・デメリット

医師インタビュー2023/12/25

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IBDに対する新しい作用機序の経口薬として注目を集めるJAK阻害剤。「中等症以上の自分が使える経口薬を待っていた!」と喜んでいる人も多いのでは?一方で、広く使われている生物学的製剤に比べ、まだまだ情報が少ないのも事実。そこで今回、長年IBD専門医として多くの患者さんの治療に携わられている関西医科大学 内科学第三講座の長沼誠先生に、IBDで使用されているJAK阻害剤それぞれのメリット・デメリット、起こり得る副作用のリスクなどについて詳しく伺いました。

JAK阻害剤ってどんな薬?生物学的製剤との違いは?

――JAK阻害剤とはどのような薬なのでしょうか

JAKとは、Janus kinase(ヤヌスキナーゼ)の略称です。IBDなどで起こる炎症は、「サイトカイン」という物質が、細胞上でそれをキャッチする「サイトカイン受容体」にくっつくことから始まります。すると、サイトカイン受容体から細胞の内部に向けて、リレーのように「シグナル(信号)」が伝わっていき、最終的に炎症が起こります。その信号を伝えていくリレーの一番手に当たる分子がヤヌスキナーゼです。このヤヌスキナーゼを阻害することで信号を断ち、炎症を抑えるのがJAK阻害剤です。

――生物学的製剤とJAK阻害剤はどちらも分子標的治療薬ですが、違いはありますか

生物学的製剤がTNFαインターロイキン(IL)-12や23など、限られたサイトカインを抑えるに対し、JAK阻害剤は複数のサイトカインを抑えます。そのため、治療効果が幅広く、より多様な病態に対応できる可能性があります。また、JAK阻害剤は半減期(薬の効き目が切れるまでの時間)が比較的短いので、効果がないとわかった際に、次の薬へ移行しやすいという特徴もあります。

生物学的製剤は抗体製剤なので、抗体を阻害する「中和抗体」ができるリスクがあり、徐々に治療効果が得られなくなる「二次無効」という大きな問題がありました。JAK阻害剤は、それに対する抗体が非常にできにくいので、治療効果が減弱する可能性が低いというのも特徴です。

生物学的製剤が点滴や注射であるのに対し、JAK阻害剤は経口薬なので毎日飲む必要がありますが、病院での滞在時間が短いという点は、患者さんによってはメリットとして感じられると思います。

――IBDで使われるJAK阻害剤にはどのような種類がありますか

JAK阻害剤が阻害する部分はJAK1、2、3、6にわかれており、どこを阻害するかによって種類が異なります。IBDに関わるのは主にJAK1、2、3で、JAK1を選択的に阻害するのが「フィルゴチニブ(商品名:ジセレカ)」と「ウパダシチニブ(商品名:リンヴォック)」、JAK1~3までを大まかに阻害するのが「トファシチニブ(商品名:ゼルヤンツ)」です。

いっぺんにたくさんの部分を抑える薬の方が良いのではないかと思われがちですが、JAK1に関わるサイトカインはIBD患者さんの炎症惹起や維持に関わるものが多く、JAK1を抑えるだけでも十分な効果が期待できます。そのため、JAK1を選択的に抑制する製剤が登場しました。

IBD専門医から見た3剤の特徴と、実際に使って感じた印象は?

トファシチニブクエン酸塩(商品名:ゼルヤンツ)/JAK1、JAK2、JAK3を阻害

  • 潰瘍性大腸炎で使用可能
  • 導入療法:通常、成人には1回10mgを1日2回、8週間経口投与。効果不十分な場合は、さらに8週間投与可能
  • 維持療法:通常、成人に1回5mgを1日2回経口投与。維持療法中に効果が減弱した場合は1回10mgの1日2回投与に増量可能。過去の薬物治療で難治性の患者では、1回10mgを1日2回投与可能

いち早く登場したJAK阻害剤です。非常に即効性があり、特にステロイド抵抗・依存性の患者さんに対する治療効果がとても高いと感じています。トファシチニブに関しては、私が本邦37施設で行った多施設共同試験の結果からは、入院に至るような病状の患者さんでも治療効果が得られることが期待できます。

フィルゴチニブマレイン酸塩(商品名:ジセレカ)/JAK1を選択的に阻害

  • 潰瘍性大腸炎で使用可能
  • 通常、成人には200mgを1日1回経口投与。維持療法では患者の状態に応じて100mgを1日1回投与可能

トファシチニブの次に登場した製剤で、JAK1を選択的に阻害します。1日1回投与という点もメリットだと感じます。また、これはあくまで使用した私の印象ですが、他の2剤に比べて感染症のリスク、特に「帯状疱疹」の発現率が低いと感じます。一方、治療効果の速度は他の2剤と比べて緩徐という印象です。また、高度の腎機能障害がある人には使用できません。

ウパダシチニブ水和物(商品名:リンヴォック)/JAK1を選択的に阻害

  • 潰瘍性大腸炎・クローン病で使用可能
  • 潰瘍性大腸炎:導入療法では、通常、成人には45mgを1日1回8週間経口投与。効果不十分な場合はさらに8週間投与することが可能。維持療法では、通常、成人には15mgを1日1回経口投与。患者の状態に応じて30mgを1日1回投与可能
  • クローン病:導入療法では、通常、成人には45mgを1日1回12週間経口投与。維持療法では、通常、成人には15mgを1日1回経口投与。患者の状態に応じて30mgを1日1回投与可能

フィルゴチニブの次に登場した製剤で、JAK1を選択的に阻害します。1日1回投与で、治療効果も高いと感じます。当院の経験ではありますが、入院患者さんへの使用でも比較的速やかに効果を発揮しています。最初の使用量が45mgと、他疾患で使用できる量よりかなり多い量を使えるという点が、治療効果の確実性につながっているのではないかと考えます。

クローン病でも効果は同じですが、重症度が高い患者さんでは効果発現は緩徐な印象を持っています。最大容量まで使えるのが潰瘍性大腸炎で8週までなのに対し、クローン病では12週までということからも、効果が出るまでには若干の時間が必要なのかなと思います。肛門病変への効果については、少数例の治験で効果がみられたという報告がありますが、エビデンスとしては乏しく、効くと言うのには時期尚早だと考えます。ただ、これまでの薬と作用機序が異なるので、治療が効かずに悩んでいた患者さんに今後期待できるかもしれません。

感染症、特に帯状疱疹が一定数で起こるので、背中などにピリピリとした違和感が出たら早めに病院に行くようにお伝えしています。早めの受診で重症化を予防できます。また、他の2剤と比べ、ニキビの副作用が多く見られます。特に女性は美容的な面を気にする方が多いので、必ず伝えるようにしています。また、高度の肝機能障害がある人には使用できません。

どんな患者さんに使われている?効果はどのくらいで出ることが多い?

――現在、どのくらいのIBD患者さんに使用されているのでしょうか。また、主にどのような患者さんに使用されていますか

関西医科大学の関連3病院でのデータになりますが、3剤合わせて100例くらいに使用しています。即効性のある経口薬なので、中等症以上で入院の必要がない外来の患者さんに使うことが多いです。また、ステロイド抵抗・依存例にも効果を発揮するので、過去にステロイドを使って再び悪化した患者さんに使用することが多いのも特徴です。

JAK阻害剤は症状が改善するだけではなく、比較的短期間で粘膜治癒に至るということもわかっています。ですから、今後は入院患者さんに対しても広く使われていくと思われます。

――使用できる年齢に関してはいかがでしょうか

私は12歳くらいの患者さんから診ていますが、小児に関する根拠はまだ十分ではないので、20歳~70歳くらいまでの患者さんに使用しています。

リウマチの患者さんのデータですが、JAK阻害剤を使っている患者さんと抗TNFα抗体製剤を使っている患者さんで比較した時に、JAK阻害剤を使っている患者さんの方が、やや心臓の血栓症に関するイベントが多かったという報告があります。そのため、心臓の血栓症リスクのある人(狭心症・心筋梗塞の既往、深部静脈血栓症のある人など)には原則として使用しません。心血管イベントが多くなる高齢者に使用する場合は、前もってリスクをお伝えするようにしています。このように、年齢に加えて、基礎疾患の有無や種類についても考慮する必要があります。

――使用開始からどのくらいで効果が出ますか?先生の印象をお聞かせください

投与した翌日に出血が止まったという人もいますが、大体1週間以内に効果が現れてくるという印象です。臨床試験のデータでも、約2週間で30~40%の患者さんの出血が止まったというデータがあります。一方、開始時の重症度が高いほど、効果が出るまでに時間がかかります。また、過去に生物学的製剤など、いろいろな治療をしてきた患者さんも、効果が出るまでに時間がかかるという印象です。

――使用で悪化した場合は中止するのでしょうか。再開することは可能ですか

多くの製剤は途中で減量するので、減量して悪化した場合はもとの量に戻します。それでまた効く症例もあります。使用を中止すると1年で約7割の患者さんが再燃するというデータがあるので、中止は主治医の先生と話し合って慎重に検討する必要があります。

一度中止して再開した場合は、約6割の患者さんで再び効果を発揮します(関西医科大学のデータ)。私自身、再度使う場合は同じ製剤を選ぶことが多いでです。ただし、フィルゴチニブは他の製剤に比べて比較的炎症が軽度の人に使うので、再度使う際に重症度が高ければ、トファシチニブかウパダシチニブを選択します。

他のIBD治療薬との併用は可能?感染症予防のためにできること

――他のIBD治療薬と併用することは可能ですか

併用できる薬もあります。例えば5-ASA製剤は併用可能ですが、併用のメリットはあまりないかもしれません。ステロイドを使っていて悪化して使い始めるケースも多いですが、その場合は、ステロイドは速やかに減量します。ただし、ステロイドの坐剤や注腸製剤は全身に与える影響は少ないと考えられているので併用可能です。また、生物学的製剤との併用もしない方が良いとされているので、使用している場合は中止します。例外的に、フィルゴチニブだけは免疫調節薬(アザチオプリン、6-メルカプトプリンなど)と併用できますが、それ以外は併用禁忌です。ですから、問題なく併用できるのは5-ASA製剤のみで、それ以外は基本的に、速やかに減量あるいは中止になると理解していただければと思います。

――JAK阻害剤使用中は感染症にかかりやすいと言われますが、予防のために病院で行っていることや、患者さんにアドバイスしていることはありますか

B型肝炎のキャリアの方がJAK阻害剤を使うと、再活性化してB型肝炎が劇症化したりする恐れがあるので、B型肝炎や結核を潜在的に持っていないか事前にスクリーニングしておくことが大切です。また、帯状疱疹になるリスクが他の薬と比べてやや高いことなど、使用によるリスクもきちんと説明するようにしています。帯状疱疹の出現率は、フィルゴチニブ以外の2剤は、私の実臨床では大体5%くらいだと思います。

私自身、帯状疱疹になったことがあるので、患者さんには「背中がゾクッとして、その後にピリピリしてきた。慌てて病院を受診した時には水泡ができていた」という実体験をそのままお伝えしています。少しでも異変を感じたら皮膚科や主治医の先生に、すぐ連絡してください。高齢になればなるほど神経障害や感覚障害が残ってしまうので、早期の受診が重要です。帯状疱疹になった場合のJAK阻害剤の継続に関しては、必ずしも中止する必要はないと考えます。

――新型コロナワクチンの接種については問題ないでしょうか

ワクチンは免疫を作って感染症を予防するという働きを持ちます。そのため、JAK阻害剤のように免疫を抑制する治療を行っているとワクチンの抗体ができにくいと言われています。それならば接種しなくて良いのかというと、それは少し違うと思います。抗体ができにくいとしても、打たないよりは重症化のリスクが下げられる可能性があると考えるからです。「複数回接種しても良いのか」ということもよく聞かれます。これについても良いとお答えしています。しかし、ワクチンの副反応が強く出る方もいますので、最終的な判断は患者さんに委ねています。近頃ではマスクを外す人も増えてきましたが、JAK阻害剤を使っている間は感染予防のために、きちんとマスクをしてくださいね。

――その他、知っておくべき注意点や懸念点はありますか

動物実験ではありますが催奇形性があるため、妊娠中や妊娠を希望する人は使用できません。また、使用中は妊娠しないよう注意してください(男性は特に問題ありません)。また、使用中は生ワクチン(麻しん・風しん、おたふくかぜ、水痘、ロタウイルス、BCGなど)は接種できません。

――今後、JAK阻害剤の治療はどのように変わっていくと思いますか

病院での滞在時間が短く済む、経口薬の登場はすごく大きいと思います。現状では「外来患者さんの中ではやや重症度が高めで、入院の必要はない患者さん」や「ステロイド抵抗・依存例の患者さん」に対して使っていますが、今後、より安全性が担保されていけば、学校や仕事が忙しい若い患者さんを中心に、広く使われていくと考えます。

「ハッピーな未来」のために、主治医の先生と自分を信じて治療の継続を

――IBD患者さんにメッセージをお願いします

IBDを一生治らない病気だと説明する医師もいると思います。しかし、適切な治療を根気よく続け、完治に近い状態になっている患者さんもたくさんおられます。ですから、なかなか良くならず先が見えないような時でも、どうか主治医の先生を信じて、そして何よりご自分を信じて、治療を継続していただきたいと思います。

毎日を楽しく過ごすために、時には多少リスクのある治療について我々は説明することもあります。またある時には食事制限が必要になるかもしれません。でも、それらは全て患者さんが幸せに生活していただくためにやっているのだということを決して忘れないでください。私たちも、患者さんたちのハッピーな未来を想像しながら、より良い治療を目指していきます。一緒に頑張りましょう!

(IBDプラス編集部)

長沼先生
関西医科大学 内科学第三講座 教授
長沼 誠先生
1992年 慶應義塾大学医学部卒業
1992年 慶應義塾大学医学部内科 研修医
1994年 栃木県済生会宇都宮病院内科
1996年 慶應義塾大学医学部内科(消化器内科) 専修医
2003年 慶應義塾大学 博士(医学)取得(2月)
2003年 米国バージニア大学医学部 消化器内科 博士研究員
2006年 慶應義塾大学医学部消化器内科 寄附講座講師
2009年 東京医科歯科大学医学部 消化管先端治療学 講師
2012年 慶應義塾大学医学部 内視鏡センター 専任講師
2017年 慶應義塾大学医学部 消化器内科 准教授
2020年 関西医科大学 内科学第三講座 教授(現職)

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