知って安心!IBD患者さんが注目すべき「血液検査」の重要項目

医師インタビュー2023/2/6

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IBD患者さんにとって最も身近な検査とも言える「血液検査」。でも、意外と知らないことが多いのでは?IBDプラス編集部には「血液検査をしょっちゅうやっているけど何をみればいいのかさっぱりわからない」などの声が複数寄せられています。とは言え、全ての項目を知るのはなかなか大変そうですよね。そこで今回は、大分県でIBD患者さんを多く診察されている「石田消化器IBDクリニック」 の石田哲也先生に、知っておくと安心できる血液検査の重要項目や、頭に入れておくべきポイントを教えていただきました。

――IBD患者さんの血液検査では、主にどんなところを見ているのでしょうか

IBD患者さんの血液検査では、「貧血の有無」「炎症の程度」「栄養状態」の3つを中心に見ています。これは、潰瘍性大腸炎・クローン病共通です。

また、IBDではさまざまな「腸管外合併症」があり、薬の副作用で肝機能障害や膵臓の障害を起こすことがよくあるので、これらに関連する項目の値も見ていきます。注視する項目や検査の頻度は患者さんの病状や行っている治療によって異なりますので、一概には言えません。

「貧血」に関してIBD患者さんが見るべき項目、知っておくべきことは?

貧血かどうかを見分ける:赤血球数(RBC)、ヘモグロビン、ヘマトクリット

IBDでは病気が悪化すると腸管の潰瘍などから出血して貧血になりやすくなるため、これらの値が前回に比べて下がっていないかを見ます。患者さんがご自身で見る場合は「以前より値が下がっていないか」「正常値の範囲内か」を確認しましょう。正常値の範囲は結果の紙を見れば判断できますが、前回と比べて値が下がっていた場合に、その下がり方に問題があるのか判断するのは難しいと思います。心配な時は、主治医の先生に「貧血の具合はどうですか」と質問されるのが良いと思います。

貧血の種類を見分ける:フェリチン、平均赤血球容積(MCV)

IBDの悪化が原因で起こる貧血は、出血が続くことによって起こる「鉄欠乏性貧血(小球性貧血)」です。鉄欠乏性貧血になると、フェリチンが低値になります。関連して、血清鉄も低値になります。

これとは別に、免疫抑制剤をはじめとする薬の影響やビタミンが吸収できないことによって起こる「大球性貧血」があります。小球性貧血では平均赤血球容積(MCV)が下がり、大球性貧血では上がるので、MCVの値でどちらの貧血なのかを見分けることもできます。

一口に「貧血」と言っても、「小球性貧血」と「大球性貧血」とは全く別物です。小球性貧血を改善するにはIBDの病状を良くする必要があります。また、鉄が不足しているので「鉄剤」で補給する必要があります。一方、薬による大球性貧血であれば、原因となっている薬をやめる必要がありますし、ビタミン不足による大球性貧血であれば、ビタミンを補う必要があります。

このように、血液検査の結果から貧血の原因を見分け、それに合った対処をしていく必要があるのです。

患者さんは「RBCやヘモグロビンの値が低ければ貧血」「小球性貧血と大球性貧血は同じ貧血でも原因や対処法が全く異なる」ということを理解しておけば、十分だと思います。

「炎症」に関してIBD患者さんが見るべき項目、知っておくべきことは?

炎症の程度を見る:血清C反応性タンパク(CRP)

炎症の程度を見るための代表的な項目です。下血や腹痛などの自覚症状がない場合でも、炎症があればCRPは上がります。つまり、自覚症状がなく寛解状態でも、CRPが下がらなければ潰瘍などの炎症があるということを示します。

しかし、潰瘍性大腸炎はクローン病に比べてCRPが上がりにくいという特徴があります。最近では新たに、炎症を見るための「LRG(ロイシンリッチα2グリコプロテイン)」や「便中カルプロテクチン(便検査)」というバイオマーカー検査をあわせて行います。これにより、CRPでは確認できない炎症を確認することができます。症状が無くても突然バイオマーカーだけ上がってくる人がいますが、これを放置してしまうと、数か月後に再燃する場合があります。このような場合は放置せずに治療を強めたり、画像検査で病変の位置を特定したりする必要があります。このように、血液検査とバイオマーカーの併用で、より高精度できめ細かい経過観察が行えるようになったと感じています。

「栄養状態」に関してIBD患者さんが見るべき項目、知っておくべきことは?

栄養状態を知る:アルブミン、血清総蛋白、総コレステロール

これらの項目が正常値であるか確認します。

血液検査とは別に、私が最も気を付けているのが「体重」です。IBDの場合は炎症があるとほとんどの場合、痩せてきます。特にクローン病で小腸に病変があると、自覚症状がなくても栄養吸収が悪くなり、痩せてきます。目安として1か月で5%以上減った場合は注意した方が良いと考えます。その意味でも、体重は体重計さえあればご自宅で気軽に計ることができますし、患者さんがご自身の体調管理をするうえで大変良い指標だと思います。

「合併症」や「副作用」に関してIBD患者さんが見るべき項目、知っておくべきことは?

肝機能:AST,ALT,LDH,γGTP,ALP/腎機能:UN,Cr/膵酵素:Amy

IBDでは、知らない間に薬の副作用が出ている場合も少なくありません。特に、肝機能・膵機能・白血球・腎機能は自覚症状が出ないので、血液検査で定期的に見ていく必要があると考えます。これらに関しては、患者さんは医師が見ている項目を知っておけば十分だと考えます。

自分の気持ちを医師に伝え、ともに考えることが良い治療につながる

――その他、血液検査について先生から患者さんにお伝えしたいことはありますか

患者さんにとって最も良いのは「症状がない」という状態ですが、IBDは自覚症状がなくても潰瘍が残っている場合があります。それを放置してしまうと将来的に悪化しやすいため、医師は、潰瘍がない状態、つまり「粘膜治癒」を目標にしています。粘膜治癒に至ったか確認するには内視鏡検査を行うのが一番良いのですが、患者さんにとって負担が大きいですよね。ですから、血液検査とバイオマーカーを併用して、粘膜治癒しているかを予測するのです。採血を面倒に感じることもあるかもしれませんが、血液検査は病状を理解してより良い治療をしていくために必須だということを、この機会に知っていただければ幸いです。

――最後に、IBD患者さんへのメッセージをお願いいたします

IBDは治療し続ける必要があり本当に大変だと思いますが、私たちも頑張っている患者さんたちがより良い人生を送れるよう、病気になる前と同じような日常生活が送れるよう、全力で手助けしていきたいと思っています。ですから、治療方針など、何か不安や疑問に思うことがあれば、いつでも主治医の先生にご自身の気持ちを伝えてください。医師と患者さんがともに考えていくことで、より良い治療が行っていけると信じています。

(IBDプラス編集部)

石田哲也先生
石田消化器IBDクリニック院長
石田哲也先生
1989年 大分医科大学医学部卒業、同大内科第一入局
1994年 大分医科大学大学院(病理学)卒業
1995年 米国ルイジアナ州立大学医療センター(生理学)留学
1996年 米国オハイオ医科大学(生理学)留学
1997年 山香町立国保総合病院 内科医師
1999年 大分医科大学 内科第一 医員
2002年 大分医科大学 内科第一 助手
2003年 大分赤十字病院 消化器科 医師
2004年 大分赤十字病院 消化器科 副部長
2005年 大分赤十字病院 消化器科 部長
2016年 石田消化器IBDクリニック院長

〈資格・所属学会〉
日本内科学会(認定医)
日本消化器病学会(専門医)
日本消化器内視鏡学会(指導医)
日本消化管学会胃腸科(指導医)
日本プライマリーケア連合学会(専門医)
日本消化器病学会(評議員)
日本消化器病学会(九州支部評議委員)
大分大学医学部(臨床教授)

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