IBDになるってどういうこと?-In their Shoesから学んだ第三者が「知る」ことの大切さ

関東のイベント2020/5/14

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患者数は増加傾向にあり、有名人のカミングアウトなどで世の中に認知されつつある炎症性腸疾患(IBD)。しかし、患者さんたちからは「おなかが弱いということくらいしか理解されない」「食事制限のことを言い出せない」という声がまだ多いのが現状です。そこで、先日行われたIBD患者体験プログラム「In Their Shoes」に参加した医学生の森本健太さんにお話を伺いました。将来IBDへの理解を広めていく立場になる医学生が体験した「IBD患者さんの1日」とは…?

森本健太さん
筑波大学医学群医学類5年(2020年4月現在)
IFMSA-Japan(国際医学生連盟 日本)New Technology Officer
森本健太さん
自身の見聞を広げたいとの思いから、2015年より世界最大の医学生NGOの日本支部であるIFMSA-JapanのSCOPH(公衆衛生に関する委員会)に所属。ぬいぐるみ病院プロジェクト責任者、公衆衛生に関する委員会責任者、IFMSA-Japan副代表外務担当を経て、現在はIFMSA-Japanの活動や、医療情報発信を担当するNew Technology Officerとして活動に従事。将来は、小児内科を専門とした医師を目指している。中学、高校と合唱部に所属し、全国大会で金賞を受賞。現在も合唱団Coro Ponteに所属し、コンクールや演奏会に参加している。

IBD患者さんの私生活や食事制限は授業であまり学んでおらず、知らないことが多かった

――今回、武田薬品工業株式会社の「In their Shoesプログラム」に参加することになった経緯を教えてください。

副代表を務める「IFMSA-Japan(国際医学生連盟 日本)」にお声がけいただき、宣伝や企画に携わっていく中で、自分もぜひ参加したいと思い、応募しました。

――森本さんご自身は、IBDについて、どのくらい知識がありましたか?

僕の大学では、2年のときに消化器に関する病気をひと通り学ぶことになっており、IBDは大きなトピックスの一つとしてあげられます。僕は入学当初から小児科志望で、小児医療に携わることはもちろん、子どもの健康を守るという観点にもフォーカスを置けるような医師を目指したいと思っています。そのような意味でも、若年患者さんが多いIBDにはとても興味があり、医学的な知識についてはしっかり学んでいました。

しかし、患者さんの私生活や食事制限などについては授業であまり触れていませんでした。今回、ワークショップや、「IBDreamめし」に必要な情報を調べていく中で初めて知ったことが多かったですね。

――IBDについていろいろ調べて、最も大変だと思ったのはどのようなことでしたか?

トイレの回数が多くなることは知っていましたが、想像以上に大変なんだと思いました。あとは、やはり好きなものが食べられないということに対する心理的なケアが大切だと感じました。

「自分ごと化」することで初めて見えた、日常にあるいくつもの障壁

――森本さんがファシリテーターを務めた「チーム医療ワークショップ」では、全員に好きな食べ物を聞いていましたね。

ワークショップが「自分がIBDになったら…」という問題提起だったので、もし、一番好きな食べ物が食べられなくなったらどんな気持ちになるだろうと想像してもらうために、あのような質問をしました。

――ワークショップでは「自分ごと化」するために、薬剤師さんや栄養士さんの1日のスケジュールを見ながら、「この人がIBDだったら何が大変か?」という話し合いをしていたのがとても印象的でした。このような企画も、学生さんたちだけで考えたのですか?

そうです。もしIBDだったら「食事で困ること」や「業務で大変になりそうなこと」が、それぞれの仕事にあって、それらに対して周囲の人がどれくらい助けてくれるのかなど、こちらがアドバイスしなくても、みんな真剣に考え、議論してくれたので、企画してよかったと感じています。

――「IBDreamめし」のワークショップはいかがでしたか?

違う学部の学生が一緒にやることで、全く違うレシピの案が出てくるのが面白かったですね。みんなが自分とは違う視点で考えているのだなと感じました。そこから実際に作ることを想定して、食材を手軽に用意できるのかを考え、どんな味の組み合わせが良いかなど、1つの料理でも、いくつもの観点で考える必要がありました。IBD患者さん向けだからとただ脂質を減らすのではなく、QOLを向上させるようなレシピを作りたいと、みんな必死でしたね(笑)。

患者体験を通して初めて知った「カミングアウト」の難しさ

――今回、「IBD患者体験アプリ」の指令を受けながら参加・進行してみて、いかがでしたか?

このようなワークショップを運営する機会は多いのですが、やはりIBDの患者さんになるだけで、トイレのこととか、心配しなければならないことがたくさんありました。ワークショップの運営中に実際に指令が来たら誰かにバトンタッチしなければならず、僕も相方にお願いしながら何とか回したのですが、話の流れがわからなくなるし、思った以上に大変でした。

――患者さんも仕事や学校で同じような経験をされているのかもしれませんね。その他にもいろいろ印象的な指令がありましたが、森本さんはどのような指令が印象に残っていますか?

トイレについての指令が来ることは想像していたので、「思ったより頻度が多いな」という感じで何とか対応できましたが、上司や飲み会の幹事から電話が来るのが一番つらかったですね…。それまでの僕は、「IBDであることをしっかり伝えるべき」と考えていたので、伝えることのデメリットについて、あまり考えていませんでした。しかし、実際には伝えることによって職を失うとか、今までのキャリアが無駄になるとか、友達付き合いができなくなるかもしれないということを突き付けられて…とてもつらい思いをしました。

――私も飲み会の誘いが特につらかったです…。森本さんは、どのように対応しましたか?

病歴3年の患者さんという設定だったので、こういう対応には慣れているのかなと思いました。でも、みんなと同じように飲食できないのはつらいですね。自分の病気について説明はしませんでしたが、持病がありアルコールが飲めないこと、脂っこいものは食べられないということを伝えました。それは仕方ないことだと思いますし、行けなくても割り切るしかないのかも…。でも、その状況に慣れることはないだろうし、想像した以上につらいと感じましたね。それに、詳しい説明をしない分、あまり理解してもらえないのか、相手の反応や態度が気にくわなかったですし、言葉は悪いですけど、ウザいと思ってしまいました。

正しく「知る」ことで、一人ひとりの行動が変わり、社会も変わると信じたい

――カミングアウトの難しさについてプログラムを通して知り、医師になったらIBD患者さんに対してどのようにアドバイスしたいですか?

非常に難しい質問ですね。願わくば周りの人の助けを借りるのも大事、と伝えてあげたいですが、そのために周囲が協力できるようにサポートしていきたいです。IBDだけでなく、何かの障害をもって生まれた子どもたちをサポートしていく方法については、常日頃から考えていかなければならないと思っています。小学校低学年くらいまでの子どもたちは、病気のことについて、比較的受け入れてくれやすいと感じています。ですが、それ以上の年齢になると、いじめに発展することもありますし、思春期であることもあいまって、「病気のことを言いたくない」と思う子が増えていくと思います。そのような子たちに対するサポートはもちろんですが、教師や友人など、病気であることを伝える相手に対するアプローチも重要だと考えます。

そのためにも、何らかの方法でIBDという疾患について、情報発信していく必要があると思いました。学生団体ができることとして、「疾患の啓発」は非常に得意とする部分です。参加した他のメンバーも「精神的なケアがとても重要」「どうしたらカミングアウトしやすくなるのか」について、特に問題意識を持ったようでした。IBD患者体験アプリから学んだこともとても多かったので、今後、IBDを知る教材として、多くの人に体験していただけたらと思います。

――IBDを知らない第三者に啓発することで、社会にどのような変化があってほしいと期待しますか?

IBDという病気で大変な思いをしている人がいることを“知る”のが、とても重要だと思います。多くの人が知ることで、そのような人たちがいるという前提で学んだり、働いたりできる環境づくりが進んでいくのではないでしょうか。昨今、働き方改革が叫ばれていますが、病気の人を周囲の人がサポートすることで社会が回っていく、それも大きな働き方改革の一つです。これはIBDに限ったことではありません。今まさに新型コロナの流行で、多くの人が学校や会社に行けなくなっていますよね。そのような不測の事態が起きても、協力し合い、良い意味で折り合いがつけられる社会に変わってほしいと願っています。

IBD患者さんへのメッセージ

今回プログラムに参加して、IBD患者さんたちの大変さを軽視していた部分があったのではないかと、非常に申し訳なく、謝りたい気持ちでいっぱいになりました。IBD患者体験アプリで肉体的なつらさや精神的な苦痛を経験し、今は医療に関わる一人として、できる限りの支援・社会に対する情報発信をしていけたらと思っています。そのような活動を通して、みなさんとともに歩んでいくことができたらうれしいです。

(IBDプラス編集部)

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