誰もが自分の病気について語れる「場所」をつくりたい―RDD Japanに込められた想い

ライフ・はたらく2024/2/14

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みなさんは、毎年2月の最終日が「世界希少・難治性疾患の日(Rare Disease Day:RDD)」であることをご存じですか?世界各地でさまざまな疾患啓発のイベントが行われています。RDD Japan事務局として長年この活動を続け、根付かせたのがNPO法人ASridです。RDD Japanの開催15周年を迎える今年、事務局の西村由希子さんと江本駿さんにこれまでの歩みと、続けることで起こった変化について、詳しく伺いました。

みんなが話せる場所を「つくる」、そして「続ける」

――第1回 RDD Japan開催までの経緯について、簡単に教えてください

西村さん:世界希少・難治性疾患の日(Rare Disease Day:RDD)は、「2008年はうるう年でRare(希少)だけど、Rareと希少疾患(Rare Disease)は響きが似ているね!」という医師と患者の会話をきっかけにスウェーデンで始まりました。そのため、RDDには「楽しい日にしよう」という想いが込められています。

私は2008年5月に出席した国際会議の場で、たまたまこのRDDの話を耳にし、「ぜひ、日本でも開催したい!」と強く思いました。当時も患者さんとご家族のイベントは行われていましたが、主治医以外の医師や医療関係者、一般企業の方、他の疾患の方とフランクに話せる場が存在しなかったからです。しかし、イベント開催のノウハウもなく、人集めの経験もなかったので、その年は開催できず、2010年にご縁があった企業や患者会のみなさんとRDD Japanを開催する運びとなりました。

――ここまで続けるには相当なエネルギーが必要だったと思いますが、西村さんの原動力は何ですか

西村さん:15年間RDDを開催してきて自負できることがあるとするならば、「普通の患者さんとご家族が語れる場をつくった」ということです。それまで、新聞などのメディアで紹介される患者さんは「ビジュアルが良く、話が上手で、シビアな状況にあって社会に訴えかけたいことがたくさんある人」ばかりでした。もちろん、その人たちの魅力や発信力を否定するつもりはありませんが、希少疾患は症状が多岐にわたり、状況も人それぞれです。同じ状況でも、どうにもならないと思っている人もいれば、何とかなると思っている人もいます。何もやる気が起きないという人がいる一方で、できる範囲で趣味を楽しんでいる人もいます。そうしたいろいろな立場、病状の人同士が話すことで、聞き手が「この人の話が好き」と感じ、そこから何かを得るわけですよね。“患者さんたちの多くは、つらいという思いだけで24時間過ごしているのではなく、「普通の生活の上に症状がある」”ということを共有するのは、すごく大切なことだと考えます。みんなが話せるプラットフォームをつくりたいという想いと、一度始めたら絶対に続けようという固い決意が、原動力になっているのだと思います。

RDD Japanを通して、当事者以外にも起こった大きな変化

――RDD Japanの回を重ねていく中で、「変化」したことはありますか

西村さん:昔からオーファンドラッグ(希少疾病用医薬品)という言葉はありましたが、多くの企業は「現実的ではないリスクしかない領域」と考えていました。しかし、昨今はオーファンドラッグがたくさん開発されていますし、そこに患者さんの声を尊重する動きもあります。それはこの15年間のとても大きな変化だと考えます。また、RDD Japanを始めるときに決めた「世界希少・難治性疾患の日」という言葉は意訳ですが、今は多くの人が使ってくれるようになりました。

江本さん:僕自身が感じた変化は「一般の方が主催者になるケースが増えてきた」ということですね。これまでは患者サイドや行政の主催が多かったのですが、昨年くらいから大学生や商店街など、難病や希少疾患とは一見すると無縁に思えた人たちが主催者になるようになり、一つの達成地点なのかなとも感じています。

――外国では当たり前でも、日本では難しいと感じることがあれば教えてください

西村さん:以前からRDD Globalがその年のテーマを出していましたが、「研究にみんなの声を活かしていこう」とか「ダイバーシティをみんなで考えよう」とか、日本ではあまり馴染みのない考え方だったり、状況にそぐわなかったりすることがありました。そのため、RDD Globalに了承をいただき、RDD Japanでは毎年独自のテーマを出しています。

――IBD患者さんからは「見た目ではわからないため、なかなか理解が進まない」といった声も聞かれますが、その件に関してフォーカスして取り組んでいることはありますか

西村さん:RDD Japanでは毎年、患者さんや当事者ご家族の生の声のセッションを行っています。その際に、車いすを使われているような外見から症状が想定される方と、IBDのように外見からは症状がわからない方の両方に参加していただくようにしています。また、セッションにはご家族の方にも入っていただき、当事者ではない聞き手の理解と想像力の幅を広げることを意識的に行っています。

――「全国RDD中高生サミット」など、中高生に向けたイベントもあるのですね

江本さん:RDDに興味を持つ中高校生の中には、医学部や薬学部を志している学生さんもいます。実際に活動に関わっていく中で、「薬学部を志望していたけれど、薬をデザインするために工学部情報学科を目指すことにした」とか、「たくさんの患者さんを薬で助けたいので、医学部ではなく薬学部を目指す」など、進路を変えるような学生さんもいて、意外なところでも役に立てていることを実感しています。   

RDD中高生サミット以外にも、さまざまな講演、スタディツアー、ウェビナーなどを開催しています。最初は患者さんや難病に対して「かわいそう」といったネガティブな印象を抱いていた学生さんたちが、生の声を聞いた後のアンケートでは「かっこいい」と、印象が大きく変わっていることが多いですね。

――患者さんの生の声を聞いた学生さんたちが「かっこいい」と感じた理由は何だと思いますか

江本さん:中高生の前で話す患者さんは私たちの方で選ばせていただいています。それは、最初に出会った患者さんの印象が、患者さん全体のイメージにつながるからです。映画やテレビでしか見たことのない難病患者さんに「弱い」「かわいそう」といったイメージを持っていた中高生たちが、実際に当事者に会って話を聞くことで「つらい症状をマネジメントしながら、自己実現のためにさまざまなことに挑戦している」ということを知り、患者さんそのもののイメージが「かっこいい」に変わっていくのだと思います。

――今後RDD Japanで力を入れていきたい活動や、変えていきたいことがあれば教えてください

西村さん:何か変わったことや大きなことをやっていきたいという気持ちはありません。むしろ、ブームになってしまわないよう、毎年やれることを少しずつ増やしながら、無理なく続けていきたいですね。

10周年にスタートした写真コンテストですが、最初は患者さんたちから「発信するものなんて無いし、写真を見せたら一般の人に何か言われるかもしれない」という声があがりました。そんなことはないとお伝えしたのですが、説得力がないですよね。それなら10年かけて証明しようと思い、毎年続けています。東京タワーでパネル展示したり、小冊子を作ってお配りしたりしていますが、本日に至るまでマイナスコメントは一つも来ていません。今も、10年経ったときに「ほら、どこからもマイナスコメントは来ませんでしたよ」と言うために続けています(笑)。

自分の何気ない「日常」が、IBDや他の疾患の人たちの役に立つことも

――RDD運営側として、IBD患者さんに望むことがあれば教えて下さい

西村さん:IBDには、IBDネットワークさんをはじめ、たくさんのコミュニティがあります。つらくなったら、そのようなところに顔を出して、打ち明けてみてください。IBDに関する情報が集約された場所に行くことで、前を向くきっかけが見つかると思います。

また、「RDD IBD」を公認開催しています。IBDの関連疾患や、同じ症状をもつ他の疾患の人たちにIBDを知ってもらうきっかけになりますし、IBDの人たちにRDDを知っていただくきっかけにもなっています。これらのコンテンツに触れていただくことが、後押しにつながればうれしいです。

江本さん:IBDなどの慢性疾患の方はどうしても「自分だけなぜ…」というような気持ちになってしまいます。RDDや患者会への参加を通して一人ではないことを実感し、生活の立て直しや調整を前向きに捉えていただけたらと思います。

――最後に、IBD患者さんにメッセージをお願いします

西村さん:機会があればぜひ、あなたのお話を聞かせてください。私たちは黒子となって、その情報を必要としている方々に伝えていきます。今年の生の声にはIBD当事者の方が登壇されますので、ぜひ、聞き手として参加してみてくださいね。

江本さん:日常を話すことはあまり意味がないと思っている方も多いようですが、実はそこに他の患者さんに役立つ情報がたくさん詰まっています。例えば、頻繁におなかが痛くなる病気はIBDに限ったことではなく、別の病気で同じ症状に悩んでいる人もたくさんいます。IBD患者さんの日常には、それをどう乗り越えるか知識や知恵がすごくたまっていると考えます。ぜひ、そうした日常の体験を、他の患者さんやご家族のために発信していただけたらうれしいです。

(IBDプラス編集部)

RDD Japan 15周年イベント 〜Let’s celebrate the 15th RDD Japan MATSURI together!

生の声セッションに、IBD患者さんが登壇されます。ぜひ、ご参加ください!

日時:2024年2月29日(木)19:30~21:00 ※オンライン配信あり

イベント詳細URLhttps://rddjapan.info/2024/japan15thanniversary/

ASrid
特定非営利活動法人ASrid
西村由希子さん

明治大学大学院理工学研究科、東京大学理学系研究科博士課程修了。東京大学先端研特任助手、知的財産権大部門助手を経て、2007 年同知財・社会技術研究室助教。10年から京都大学 iCeMS 客員講師併任。ウィスコンシン大学マディソン校及び清華大学経営管理学院での在外研究経験あり。その他文部科学省技術参与(地域科学技術政策)等兼職。2010年から7年間日本難病疾病団体協議会国際事務局長として勤務。2014年にASridを設立し、16年から同専従。

江本駿さん

東京大学医学部健康総合科学科卒業後、同大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻博士課程修了。博士(保健学)。現在、NPO法人ASridの専従研究員。希少・難治性疾患患者・家族のPRO(Patient Reported Outcome)の評価・解析が専門。

ASridホームページ : https://asrid.org/

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