IBDに関与する小胞体ストレスが、腸管炎症の保護作用をもつ抗体を誘導していると判明

ニュース2019/3/12

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炎症性腸疾患(IBD)では腸管が過剰な小胞体ストレス状態に

大阪市立大学大学院医学研究科 消化器内科学の細見周平講師らの研究グループは、炎症性腸疾患(IBD)の腸管上皮細胞の小胞体ストレスが、腸管炎症の保護作用をもつ抗体の1つである免疫グロブリンA(IgA)の産生を誘導することを明らかにしました。

小胞体ストレスとは、正常な形になり損なった「変性タンパク質」が、細胞内小器官である小胞体に蓄積した状態を指します。この小胞体ストレスが過剰になると、細胞に悪影響が生じ、さまざまな疾患につながることが知られています。

これまでの報告から、炎症性腸疾患(IBD)の潰瘍性大腸炎(UC)やクローン病(CD)では、腸管が過剰な小胞体ストレス状態にあることがわかっています。また、「X-box-binding protein 1 (Xbp1)」という、小胞体ストレス応答を制御する主要な転写因子のはたらきが悪くなる変異(機能低下型変異)が、炎症性腸疾患の発症リスクとなる遺伝的背景として同定されています。一方で、腸管小胞体ストレスの粘膜保護的な作用、つまり腸管への良いストレスを検討した研究は、これまでにありませんでした。

小胞体ストレスには、IgA誘導という良い一面も

今回の研究ではまず「腸管上皮細胞特異的Xbp1欠損マウス」を詳細に解析しました。このマウスは、過剰な小胞体ストレス状態が認められ、その結果としてクローン病に類似した自然発症小腸炎が生じることが既に知られているマウスです。解析の結果、過剰な小胞体ストレス状態にあるマウスの腸管では、IgAの産生が促進されていることが明らかとなりました。また、産生されたIgAの濃度は、小腸組織中だけでなく、血漿中や小腸の内腔でも上昇していました。

そこで、Xbp1欠損マウスに生じる自然発症小腸炎におけるIgAの役割を解明するため、抗体の産生に関わる部分も同時に欠損したXbp1欠損マウスを作って解析を行ったところ、IgAがXbp1欠損マウスの小腸炎を抑える作用をもつことが判明しました。つまり、腸管小胞体ストレスは、腸炎を導こうとする悪いストレスを引き起こすと同時に、腸炎を抑えようとする良いストレスとしての一面も持っていたのです。

IgA誘導のメカニズムが、炎症性腸疾患(IBD)の病因を紐解くきっかけに

腸管IgAの産生には、リンパ球の1種であるT細胞に依存する経路と依存しない経路の2つがあります。どちらの経路なのか詳細に解析をした結果、小胞体ストレスで誘導されるIgAはT細胞に依存しない経路で誘導されると判明しました。さらに、炎症や腸内細菌叢にも依存していませんでした。ではどういう経路でIgAが作られるのか、さらに詳しく調べた結果、腹腔内のB1b細胞というリンパ球が、腸管小胞体ストレスによるIgA誘導の経路であると判明しました。なお、これらはマウスでの解析ですが、腸管小胞体ストレスの増加が生じる遺伝子背景を持つヒト(ATG16L1T300A)においても小腸粘膜IgAが増加していたことから、人間でも同様のことが起こっていると考えられるそうです。

今回の研究結果から、今まで悪影響しかないと考えられていた腸管上皮細胞の小胞体ストレスが、腸管炎症の保護的な作用を有するIgAを誘導するという「好影響を与える一面をもつ」ことが明らかになりました。このメカニズムは、腸管小胞体ストレスによる炎症に対する腸管恒常性維持機構として重要な働きであり、炎症性腸疾患(IBD)の病因を紐解くきっかけになる可能性があります。

(IBDプラス編集部)

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