潰瘍性大腸炎の医学生が大腸全摘を決意した一言/参加者からのQ&A【JSIBD市民公開講座】

ニュース2019/3/8

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平成30年度日本炎症性腸疾患学会の市民公開講座では、IBD(炎症性腸疾患;潰瘍性大腸炎、クローン病)患者さんの生の声が聞ける演題もありました。

まず、潰瘍性大腸炎の患者であり、医学生でもある松根佑典さん(昭和大学医学部医学科5年)が「あなたの『不安』を教えてください」と題し、自らの闘病生活と、そこから得た学びについて語りました。そして、「参加者からのQ&Aコーナー」では、参加していた患者さんやご家族の質問に、専門医が回答しました。回答者は小林清典先生(北里大学医学部新世紀医療開発センター)と高橋賢一先生(東北労災病院炎症性腸疾患センター)です。今回は、この2つの演題の模様をお伝えします。

心身ともにどん底だった自分を救ってくれた医師の言葉

昭和大学医学部医学科5年 松根佑典さん
昭和大学医学部医学科5年 松根佑典さん

松根さんがはじめて下血に気づいたのは、ようやく医学部の合格通知を手にした1週間後でした。その後、潰瘍性大腸炎と診断されましたが、まだ医学の勉強をする前で、よくわからないままIBDの治療を受けていたそうです。しかし、大学生活は多忙を極め、薬が飲めないということが度々起こると、次第に体調が悪くなり、入院してステロイド治療などを受けました。しかし、退院後も定期テストや人間関係のストレスで症状は悪化の一途をたどり、生物学的製剤による治療を開始しましたが、合併症の帯状疱疹に悩まされ、その治療もおぼつかないという状態になってしまったそうです。そして大学3年生の冬、大腸の全摘手術を受けることを決意しました。手術を受ける直前は、高熱でフラフラ、ペットボトルのフタすら開けられず、看護師に水を飲ませてもらっているような状態だったそうです。松根さんはこのときの気持ちを、「とにかく不安と恐怖しかなかった」と振り返っています。

この時、会話も困難な状態になっていた松根さんに、大腸全摘の手術を決心させたのは、主治医の「私の息子でも同じ治療法を提案します」という一言でした。この言葉に救われた松根さんは、「自分の身内ならどうするかという視点で説明されると、患者はとても安心する」ということを、身をもって体験しました。そして、患者一人ひとりが「表に出せない不安や悩み」を抱えていることにも、自身の病気を通して、気付くことができたのです。

医療者に「伝える」ことの大切さ

手術後は、嘘のように体が軽くなったそうです。今では長時間の手術の実習でもトイレに行かずに済むようになり、より集中して学ぶことができるようになったそうです。いま、「ひとりの患者さんにさまざまな視点から向き合えるような消化器外科医」を目指し、病院で実習中です。

最後に松根さんは、「何か不安を感じたり、困ったりしていることがあるなら、医師でも看護師でもいいので、ご自身が話しやすい医療者に伝えてください。チーム医療で情報が共有され、より良い治療やケアにつながるはずです」と、不安を表出することの大切さを強調しました。

参加者からのQ&Aコーナー

北里大学医学部 新世紀医療開発センター 小林 清典 先生(右)と東北労災病院 炎症性腸疾患センター 高橋 賢一 先生
北里大学医学部 新世紀医療開発センター 小林 清典 先生(右)と東北労災病院 炎症性腸疾患センター 高橋 賢一 先生

Q&Aコーナーでは、参加者たちからIBDに関するさまざまな質問が飛び出しました。ここではその一部を紹介します。

【質問1】薬は一生飲み続けなければいけないのでしょうか?

症状が落ち着いたからといって薬を止めると、再発しやすくなってしまいます。医師から特別な指示がない限り、薬は飲み続けるようにしましょう。もちろん、症状に合わせて薬の種類や量は減らすようにしています。「いつもと違う症状が出た」など、何かおかしいと思った場合は、すぐに主治医の判断を仰ぐようにしてください。

生物学的製剤も、いったん止めてから再開した場合に、その薬に対する抗体ができてアレルギー反応が起きやすくなりますので、続けた方がよいと考えられています。ですから、現状では症状が落ち着いた場合も、投与間隔を伸ばすなどの対応になるかと思います。ただし、生物学的製剤を中止できるかどうかの研究が日本で進行中ですので、その結果によっては、今後の対応が変わっていく可能性があります。

【質問2】新薬の情報はどのように入手すればいいですか?

新薬については製薬会社がパンフレットを作成しているので、主治医に依頼すればもらえると思います。なお、インターネットで情報を探す場合は、その情報を出している運営元が信用できるかどうかを、きちんと確認するようにしてください。

【質問3】「糞便移植」という治療法について教えてください

IBDの病態には腸内環境(腸内細菌叢)も影響していると考えられています。そこで、健康な人の糞便(≒腸内細菌)をIBD患者さんの腸内に内視鏡で入れ、腸内環境を変化させれば症状が良くなるのではないか、との狙いで開発されたのが「糞便移植」という治療法です。臨床試験の結果、被験者の約20%には有効でした。しかし、その効果は強くはなく、長続きもしないようです。また、まだ保険適応になっていないので、誰でもすぐに受けられる治療法ではありません。ちなみに、IBDで感染リスクがある「クロストリジウム・ディフィシル腸炎」は、糞便移植がよく効くことがわかっています。

【質問4】薬を変えて少し経った後に出血がありました。運動したから出血したのではないかと心配です。薬を変更したときなどに感じる不安や懸念などを、どのように医師に伝えればいいですか?

自覚症状が強い時を除き、運動そのものを制限する必要はありませんが、ストレスや過労が引き金となって症状が出ることがあるので、心当たりがあれば医師に話して欲しいです。言いにくいかもしれませんが、暴飲暴食をしたときも教えてもらえると非常に助かります。医師から聞かれたことだけに答えるのではなく、日々の生活で気になったことがあれば、どんなことでもいいので、遠慮せずに伝えるようにしてください。

(ライター:伝わるメディカル 田中留奈)

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