IBD治療薬が赤ちゃんに与える影響は?妊娠を望む患者さんが知りたい6つの疑問【JSIBD市民公開講座】

ニュース2019/3/7

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IBD(炎症性腸疾患;潰瘍性大腸炎、クローン病)は若い世代で発病することが多く、妊娠・出産を予定/希望している患者さんも大勢います。その中には、「IBDだと妊娠しにくいのではないか」「薬を飲みながら妊娠・出産・授乳はできないのではないか」「子どもに障害が起きてしまうのではないか」など、不安に胸が押しつぶされそうな方もいらっしゃるのではないでしょうか。

「病気が落ち着いている寛解期であれば、安全な妊娠・出産が期待できる」と語るのは、IBD患者さんの妊娠・出産に詳しい国崎玲子先生(横浜市立大学附属市民総合医療センターIBDセンター)。今回は、平成30年度日本炎症性腸疾患学会の市民公開講座より、国崎先生がご講演された「女性IBD患者さんの妊娠・出産について」の模様をお伝えします。

IBD患者さんは「妊娠・出産」は難しい?

横浜市立大学附属市民総合医療センター IBDセンター 国崎玲子先生
横浜市立大学附属市民総合医療センター
IBDセンター 国崎玲子先生

近年、何らかの病気を持った女性が妊娠を望む場合、「病気を良好にコントロールすることで、妊娠に合併するリスクを減らす」という考え方が主流になりつつあります。昔に比べ、母体や児の健康に害を及ぼす薬も少なくなり、多くの病気では薬による治療を続けながら、妊娠・出産を目指すことが可能になりました。IBDもそのひとつです。

まず、IBD自体が原因で不妊や奇形が増えるということはないとのことです。

その上で、国崎先生は「IBD患者さんが安全に妊娠・出産するための手順」について、以下の6つを挙げました。これらのことを主治医と話し合い、治療方針を決め、計画的に妊娠することで、普通の人と同じような妊娠・出産が可能になるそうです。

(1) 妊娠を希望していることを主治医に伝える
(2) 妊娠に適した寛解状態(=病気が落ち着いている状態)であるかを確認する
(3) 寛解状態でなければ、治療を調整して寛解を目指す
(4) 寛解状態であっても、妊娠に望ましくない薬を使用している場合は、主治医と相談してその薬を中止・変更する。その後も症状が再燃せず、安定するのを確認する
(5) 妊娠しても今の治療を継続するのか、妊娠前に治療を変更するのか、治療の中止後に悪化したらどう対処するのか、主治医と妊娠した際の治療方針を決める
(6) 出産する病院について、主治医や家族と相談する(産科と消化器科がある病院を選ぶ、里帰り分娩が可能な状態か、など)

IBDは、腸に炎症がある「活動期」は妊娠しにくく、妊娠したとしても約3割の人で病気が悪化し、より多くの薬が必要になったり、緊急手術が必要になったりする懸念があるそうです。また、炎症による影響で「流産・早産・低出生体重児」が増えることもわかっています。さらに、妊娠12週前後と分娩直後は再燃しやすいことがわかっており、授乳や育児が困難になる可能性も考えられます。これらを踏まえ、国崎先生は「IBD患者さんが母子ともに安全に妊娠出産するためには、寛解期に計画的に妊娠することが何よりも重要」と、強調しました。

IBD治療と妊娠・出産、気になる6つの疑問に一問一答

ここからは、妊娠・出産を望むIBD患者さんなら誰しもが不安に思うであろう、お薬や検査が母子にあたえる影響、男性側がIBD患者さんである場合の注意点など、6つの疑問を当日のご講演内容から一問一答形式でご紹介します。

1.妊娠・授乳中にIBDの薬を使うのは危険?

「妊婦は風邪薬ですら止められるのに、ましてやIBDの薬なんて…」と懸念されている方も多いのではないでしょうか。しかし、実は風邪薬や痛み止めの一種である非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)こそ、胎児に悪影響を及ぼす可能性がある数少ない薬のひとつ。つまり、「風邪薬ですら」ではなく、「風邪薬だからこそ」というのが真実です。ほとんどのIBD治療薬は妊婦中でも使えます。

2.妊娠・授乳中に注意が必要なIBD治療薬は?

IBD治療に使用する薬のなかで、メトレート、サリドマイドは明らかに児に悪影響があるため、妊娠中の投与は避けます。エンタイビオ、ゼルヤンツなどの新薬は、妊娠における安全性のデータが乏しいため、妊娠中の投与は避けます。

免疫調節剤(イムラン、アザニン、ロイケリン)は、動物で奇形を起こす報告がありますが、ヒトでは明らかな悪影響はないと報告されています。妊娠時には、可能であれば中止することが望ましいですが、必要であれば継続も可能です。

抗TNF抗体製剤(レミケード、ヒュミラなど)は、妊娠中期以降は胎盤を通過して胎児に薬が到達しますので、妊娠中の投与スケジュールを主治医に相談しましょう。

薬による奇形のリスクは、一般的に妊娠初期にその薬の投与を受けていたかによって起こります。ですから、妊娠前に奇形のリスクを伴う薬を使用していたとしても、適切なタイミングで断薬・休薬すれば、その後の妊娠・出産への影響はないと言われています。

3.IBDやその治療薬は流産のリスクを高める?

赤ちゃんを待ち望むお母さんやお父さんにとって、流産は大変辛いことですが、持病の有無、投薬の有無にかかわらず、約15%の確率で誰にでも起こります。国崎先生は、「万が一流産してしまっても、IBDや、その治療のせいにして、自分を責めないで欲しい。誰にでも起こり得る偶然を引き当ててしまったと理解し、無用のストレスを抱えないようにして欲しい」と述べました。

4.IBDの検査で不妊や奇形が増える?

IBD発症後には、治療を行うだけでなく、X線検査やCT/MRI検査など多くの検査を受けることになります。これらの検査は妊娠や出産に影響を与えないのでしょうか。結論から言うと、妊娠以前に検査を何度も受けたからといって、不妊や奇形が増えることはないそうです。

5.IBD治療中でも授乳はできる?

母乳哺育は、赤ちゃんの発達や成長を促進し、死亡率を低下させるとともに、IBDの発症率を低下させる効果があるとも言われています。国崎先生は母乳哺育のメリットを紹介したうえで、「薬を飲んでいるからと授乳できない」と決めてしまうのではなく、主治医の先生に一度相談してみることを勧めていました。

6.男性側のIBDは不妊や奇形に影響する?

男性も、IBD自体が原因で不妊や奇形が増えるということはありません。サラゾピリンを服薬している男性では、精子の数が減り、妊娠しにくくなることがわかっていますが、服薬を中止すれば2~3か月で元の数に戻り、その後に薬の影響で不妊になることはありません。

免疫調節剤(イムラン、アザニン、ロイケリン)は、海外では男性患者さんの妊娠に安全に投与可能とされていますが、日本人では児の奇形がわずかに増加したという報告があります。パートナーの妊娠を希望する場合は主治医に相談し、必要に応じて薬の変更などを検討してもらいましょう。

なお、国崎先生は講演中に「IBDと妊娠に関する情報源」として、以下のサイトをご紹介くださいました。詳しい情報をお知りになりたい方は、ぜひご覧ください。

(ライター:伝わるメディカル 田中留奈)

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