【JSIBD市民公開講座】新型コロナウイルスとIBD診療・ワクチン接種について(札幌医科大学 消化器内科学講座 仲瀬裕志先生)
ニュース | 2023/2/28
コロナ禍の不安な状況が依然として続いていますが、「IBDと新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)」について、これまでにどんなことが明らかになっているのでしょうか。「IBDではない人たちとの違いはあるの?」「IBDの治療で新型コロナに感染しやすくなってしまったら…」など、不安に思われている方も多いのではないでしょうか?そのような疑問について、札幌医科大学 消化器内科学講座 仲瀬裕志先生が、わかりやすく解説してくださいました。
新型コロナ重症例で消化器症状「多」、予防のためには腸内細菌叢を保つことが重要
新型コロナでは、消化器症状が出現することが知られています。仲瀬先生によると、成人を全体的に見ると「食欲不振」が最も頻繁で、それ以外は下痢、吐き気、嘔吐、腹痛などがあるそうです。また、これらの消化器症状は重症患者で出現率が高く、腹痛も伴うということです。
さらに、札幌医科大の研究グループが行った研究で明らかになったこととして、「重症例では腹部症状の有無にかかわらず便中カルプロテクチンが上昇している」ことを挙げました。このことから、コロナウイルスが消化管粘膜に影響を及ぼしていることが判明。重症例では腸内細菌のパターンが異なることも明らかになったそうです。
また、便中の腸内細菌による代謝産物を調べたところ、トリプトファン代謝が低下しており、回復期でも持続していたそうです。トリプトファンは抗菌作用をはじめ、腸管内の免疫を保つために重要な役割を果たします。仲瀬先生は「新型コロナの重症化予防に関しても、腸内細菌叢を保つことの重要性が示唆された」と述べました。
なお、ワクチン接種後の新型コロナに対する予防効果は「IBD患者さんもIBDではない人と同じ」ということです。
IBDにおける新型コロナの重症化因子は?
次に、日本人炎症性腸疾患患者におけるCOVID-19感染者の多施設共同レジストリ研究グループ(J-COSMOS group、以下、J-COSMOS)の中間解析結果(2021年10月20日時点での登録データ)を発表しました。
参加した72施設全体のIBD患者さんは約3,100人で、そのうち登録された新型コロナの患者さんは187人(罹患率:0.61%)でした。平均年齢42歳で、性別はやや男性が多く、併存疾患のある人は31%でした。疾患別には、潰瘍性大腸炎104人、クローン病74人で、寛解・軽症の患者さんが多かったそうです。
登録データを解析した結果、「年齢とBMI(肥満指数)が増加するとともに、重症例が増加する」ということが判明。「高齢・高BMI(肥満)・IBDに対するステロイドの使用」がIBDにおける重症化因子であることが明らかになりました。これらは、世界の傾向とも一致しているそうです。
パンデミックに備えるためにも、「遠隔連携診療」の普及が重要
新型コロナの流行で日本のIBD患者さんが感じた不安や行動変容に関するアンケート調査(3,049通、回収率80.4%)の多施設共同観察研究の結果も一部紹介されました。
「コロナ禍でどれぐらいの不安を感じましたか?(スコア1~10)」の結果は平均5.1で、コロナ禍で中等度の不安を感じている人が多いということがわかりました。感染者数の増加とともに不安のスコアを見た場合では、感染者数が増えたという報道後に不安のスコアが上昇していることがわかったそうです。
不安の内容では「新型コロナに感染するかもしれないので受診が不安」「病気そのものが新型コロナに感染する可能性を高めるのではないか心配」「IBD治療に使う薬が新型コロナに感染する可能性を高めるのではないか心配」の3つを挙げる人が多かったそうです。さらに、「IBDを診療できるかかりつけ医」の必要性を強く感じている人が多いこともわかったとしています。
現在、札幌医科大学では遠隔連携診療を行っているそうですが、仲瀬先生は「パンデミックに備えるためにも、今後、遠隔連携診療が一般化していくことが求められる」と力強く語り、講演を締めくくりました。
(IBDプラス編集部)
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