腸の病気の研究に役立つ、より「腸らしい」腸を作成する新技術を開発

ニュース2019/6/11 更新

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腸の病気の新薬開発などに役立つ「ミニ組織」を永続的に培養できる新技術

慶應義塾大学医学部坂口光洋記念講座(オルガノイド医学)の佐藤俊朗教授らの研究グループは、「ヒト腸管上皮オルガノイド」を永続的に培養する新しい技術を開発したと発表しました。オルガノイドとは、細胞を立体的に培養して、実際の組織に類似させた「ミニ組織」のことで、ヒト腸管上皮オルガノイドは、腸の病気に対する新しい薬の開発をしたり、腸の病気の仕組みを解明したりするために、マウスなどの実験動物の代替手段として役立つものです。

ヒトの腸管上皮(小腸・大腸の粘膜)は、水分や栄養分の吸収を主に担っています。これに加え腸管上皮には、腸内細菌に対するバリアとなる粘液や抗菌物質を分泌する働き、食欲や腸管の動きを調節するホルモンの分泌など、いくつもの重要な機能が備わっています。

腸管には、こうしたそれぞれの機能を専門的に担当する細胞(分化細胞)が数多く存在します。分化細胞は長くても2~3週間で寿命を迎え、老廃物として腸管内に排泄されます。失った分の細胞を補充するため、腸管上皮には全ての分化細胞の生みの親である「幹細胞」が存在します。幹細胞は生涯にわたり分化細胞を生み出すとともに、自身が枯渇しないため、自己の複製も作ります。

佐藤俊朗教授は、2009年にマウスの腸管上皮の幹細胞を体外で永続的に三次元培養するオルガノイド技術を開発(Sato T, et al. Nature 2009)。さらに、2012年にはヒトの腸管上皮のオルガノイド培養に成功しましたが、従来の培養条件では長期に培養することは困難でした。

技術の普及で、新規治療薬の臨床試験などを高精度かつ簡便に行うことが可能に

そこで研究グループは今回、幹細胞をより生体内に近い環境に置くことで、オルガノイドでも生体組織と同様に分化細胞が絶えず生み出されるようになると推察。ヒトの腸管組織に実際に存在する10種類の増殖因子に着目し、その組み合わせを網羅的に検討しました。その結果、IGF-1とFGF-2という2つの増殖因子を組み合わせることで、ヒト腸管上皮オルガノイドを効率的に培養できることを見出しました。さらに、従来使用していた増殖因子をこの2つに置き換えることで、実際の腸管上皮でみられる現象を再現したオルガノイドを永続的に培養することが可能になりました。

IGF-1は成長ホルモンの一種で、全身臓器の成長を促します。また、FGF-2はさまざまな細胞の増殖を促進し、皮膚潰瘍の治療薬として臨床でも用いられています。これらのことも、IGF-1とFGF-2を用いた組織培養法が、理にかなっていることを示唆しています。

今回の研究成果により、より本来の組織に近いヒトの腸上皮組織を体外で構築することが可能となります。この技術が普及することで、従来マウスで行っていた、腸の病気に対する薬剤試験、遺伝子機能解析、新規治療薬の臨床試験などを、動物実験を行わずに、培養皿の上で高精度かつ簡便に行うことができるようになることが期待されます。

(IBDプラス編集部)

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