【治験座談会(後編)】IBD専門医が語る「治験」の現状と問題点

潰瘍性大腸炎2020/1/31

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前回、IBD治療の経験豊富な専門医の先生方に、患者さんから多く寄せられる質問や、治験を検討すべきタイミングの目安など、医師の視点からわかりやすくお話しいただきました。今回は、生物学的製剤の恩恵の裏で問題となっている「二次無効」への対応や、日本におけるIBD治験の現状と問題点などについて、詳しく伺いました。

左から吉田先生、遠藤先生、三枝先生
左から吉田先生、遠藤先生、三枝先生

長期投与による二次無効。医師の考えは…?

――治験の組み入れ基準、医師の対応すべき書類やメディカルスタッフのトレーニングなどの観点で、どのような課題、改善策があるとお考えでしょうか?

遠藤先生:私たちが作成する書類上のことなど、改善して欲しい点は多くありますが、グローバルなルールで決まっているため、日本独自に変えることはできません。煩雑な事務的仕事が多くあり、優秀なCRCの協力がなければ治験実施は難しく、医師だけで行うことは不可能だと思います。

――治験に関わるメディカルスタッフのトレーニングに関してはいかがでしょうか?

遠藤先生:もちろん、メディカルスタッフもきちんとトレーニングできていないと、治験実施は難しいと思いますが、全ての治験プロトコールの詳細を理解し記憶していくことはできませんので、治験専任スタッフにサポートしていただくことが必要です。

――日本で実施しているIBDの治験は計画期間内に必要な参加人数が集まらず、延長となることが多いと聞きます。いち早く新薬や新しい治療法を世に出すため、治験を期間内に終わらせるには、どうすれば良いとお考えでしょうか?

吉田先生

吉田先生:日本は特にクローン病患者さんの参加者が少なく、計画通りの治験進捗が難しいことが多いです。事前にきちんと計算して治験実施計画書を作成する必要があると思います。

遠藤先生:CDAIスコア(クローン病の活動指数)が良くても、内視鏡で見るとアクティブな患者さんはたくさんいます。しかしながら、そういう方は、現状では治験に参加できません。参加基準の見直しが必要なのかも知れません。しかしもちろん、基準を変えていくには越えるべきハードルはたくさんあります。他の先生でも同じことを思われている方は多いのではないでしょうか。

――なるほど…。一方で、疫学的にはIBD患者さんは増加傾向にあり、治験や研究の進捗とかみ合っていないようにも見えます。この点について、先生方はどのようにお考えでしょうか?

吉田先生:三枝先生もIBD患者さんを多く診療されていると思いますが、特にクローン病は病態が複雑で、疾患パターンがいろいろありますよね。

三枝先生:そうですね。クローン病は潰瘍性大腸炎に比べて、診断がとても難しいですよね。そのようなことも、治験に影響を与えているのではないでしょうか。

遠藤先生:治験の参加条件に合致する症状が全て揃っている、患者さんが少ないことも影響しています。また、小児患者さんの場合は、治験というものに対して抵抗感を持たれる親御さんが多く、同意がいただけないという場合が多いように思います。

――先生方から見て、それでも治験参加が望ましいと思われる場合は、説得されることもあるのでしょうか?

遠藤先生:それはしませんね。治験薬が本当に良い薬だというエビデンスがありません。治験はそれを証明するために行うものなので、強引にお勧めするということはしません。

――生物学的製剤の登場でIBD治療は大きく変わりました。しかし、長期投与の末に二次無効となり、その後の治療選択肢に窮するというケースも見受けられます。これについて、先生方はどのようにお考えですか?

三枝先生:患者さん自身が治験について情報収集をして、二次無効になる前の、早い段階で治験を希望されるのであれば、そこで治験への参加を判断するのが一番良いと思います。

――二次無効は経験されていますか?

三枝先生:二次無効については、まだ経験ありませんね。

遠藤先生:多くの症例を経験しています。二次無効例に著効する薬を期待していますが、現在発売されている薬で、その期待に応えてくれているものはまだないですね。ですから、現在進行中の治験薬に期待しています。

吉田先生:そうですね…。やはり、生物学的製剤の特性からしても、抗薬物抗体(薬を攻撃してしまう抗体)が二次無効の原因の患者さんに関しては、次の生物学的製剤に対しても、同様の機序で二次無効になる可能性があり、効きにくくなるのではないかと考えます。しかし、基本的には、二次無効でもナイーブ症例(生物学的製剤治療を受けたことのない症例)でも、「患者さんが希望して、条件を満たす治験があれば参加していただく」というスタンスです。ですから、二次無効だから、ナイーブ症例だから、という理由で患者さんに治験参加をお勧めするということはないですね。

遠藤先生:ここまで私がお話ししてきたのは、主に治験のフェーズ2b以降についてです。治験薬がリウマチなど他の疾患ですでに保険収載されていたり、同じ作用機序の他治験薬の先行治験での副作用情報を参考に見ることもできます。どれくらいの効果が得られるのかということも、予想しやすいものが2b以降で多い気がします。2b以降の治験に関しては、次の治療を試して、それでも効かなかった場合の選択肢として挙げられます。フェーズ1の治験薬はこれらと全く異なるものですし、そう簡単に参加を考えられるものではないと思います。

――すでに二次無効になっている方に関しては、別の生物学的製剤や低分子製剤を試す、もしくは治験参加という選択肢になるのでしょうか。

遠藤先生:そうなりますね。あとは手術ですね。

吉田先生:私の経験では、チオプリン製剤の併用をまだ試していなかったという患者さんもいました。ですから二次無効の場合、上乗せできる薬剤があれば試してみるのも、ひとつの手段だと思います。

――治療を広く正しく理解してもらうために、世の中はどのような工夫・取り組みを行っていくべきだとお考えでしょうか?

三枝先生

三枝先生:今回のようにメディアで取り上げるなど、まずは「治験」という選択肢があることを、広く知っていただくことが大切だと考えます。

遠藤先生:患者さんに対する啓蒙活動や情報提供が、まだまだうまくできていないと感じるので、包括的に治験情報を知ることができるようなサイトがあれば良いと思います。そこで「治験ってどういうものなの?」とか、「治験薬の安全性についてどこまでわかっているの?」など、患者さんの疑問について解説することが必要だと考えます。そこで患者さん自身が治験について学び、興味のある治験を実施している施設に転院するというのは、きわめて健全な流れだと思います。

吉田先生:私もお二人と同じように、治験情報とともに患者さんとドクターをつなぐサイトや、市民公開講座のようなもので、広く患者さんに治験について啓蒙していく必要があると考えます。最近ではネット中心の社会になってきているので、患者さんが積極的に使いたくなるような内容で、IBDの病態・治療・治験情報などを伝えていく中立的なサイトがあればいいと思います。

治験を「ポジティブ」にとらえてみる

――最後に、この記事を読んでいるIBD患者さんへ、先生方からメッセージをお願いいたします。

三枝先生:今後メディアなどが治験に関する情報を広く正しく伝えていくことで、「治験」に対する敷居も低くなっていくのではないでしょうか。この記事を読んでいる方にも、まずは治験が「治療選択肢のひとつ」としてあるんだということを知っていただきたいですね。

吉田先生:治験は、IBDの病態生理から治験薬の作用機序に至るまで、しっかり説明し、納得した方にだけ入っていただくシステムになっています。ですから、これまで自分の病気についてあまり考えていなかった人でも、治験参加を検討することで、IBDについて深く学び、理解するようになると思います。そのようなことにも、治験は一役買ってくれているのです。

遠藤先生:治験終了後にその治験薬が上市される可能性は非常に高いと言えます。つまり、治験について学ぶことは、自身の病気であるIBDの治療が、5年後、10年後にどうなっていくのかということを学ぶ機会とも言えるのです。ですから、まずは治験に興味を持っていただき、病状が悪くなっても、「もしかしたら治験に入れるかもしれない」と、ポジティブに考えていただけたらと思います。治験薬は将来の新しい薬剤候補ですから、それを使うことで、現状より良くなる可能性もあります。もちろん副作用の心配もありますが、ポジティブな面もたくさんあるので、そういう部分にも、ぜひ目を向けていただきたいと思います。

(取材:IBDプラス編集部)

治験用語解説
二次無効
生物学的製剤を使用して一定期間経つとその効果が弱まる、あるいは効かなくなって再燃してしまう現象のこと。年間10%前後の患者さんに起き、5年経過すると、約半数の患者さんがこの状態になると考えられている。
CRC
治験コーディネーターのこと。医師が行う治験の説明を補助したり、治験参加中に症状変化などが起きた場合の相談を受けたり、通院スケジュールの調整を行ったりします。
プロトコール(治験実施計画書)
治験の目的・デザイン・実施方法・治験を行う組織など、治験を行うにあたり、医療機関や製薬会社が遵守すべき要件を記載した計画書。
ナイーブ症例
その薬剤をまだ投与したことがない症例。「生物学的製剤ナイーブ症例」などという風に使われる。
フェーズ1
健康な成人に対し、治験薬の安全性の確認のために行う治験
フェーズ2a
比較的少人数の患者さんに対し、治験薬の適した用法・用量を決めることを主な目的として、有効性・安全性の検証、特に安全性を検証するため行う治験
フェーズ2b
2aよりも多い少人数の患者さんに対し、治験薬の適した用法・用量を決めることを主な目的として、有効性・安全性の検証を行う治験

大船中央病院 消化器・IBDセンター長
遠藤豊先生

1988年昭和大学医学部卒業。日本内科学会認定内科医、日本消化器病学会専門医・指導医・関東支部評議委員、日本消化器内視鏡学会指導医・本部・関東支部評議委員、日本消化管学会胃腸科専門医・指導医、日本カプセル内視鏡学会認定医・指導医、昭和大学客員教授

大船中央病院 光学診療部部長
吉田篤史先生

2000年高知大学医学部卒業。日本内科学会認定内科医、日本消化器内視鏡学会専門医・指導医・学術評議員、日本消化器内視鏡学会関東支部 評議員、日本消化器病学会専門医・指導医、日本消化器病学会関東支部 評議員、日本消化管学会胃腸科専門医・指導医

JCHO相模野病院 消化器内科部長
三枝陽一先生

2001年北里大学医学部卒業。2008年より相模野病院へ出向、2018年より現職。日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本消化器病学会専門医・指導医、日本消化器内視鏡学会専門医・指導医、難病指定医
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