いざという時、慌てないために。これだけは学んでおきたい「IBDと防災」

医師インタビュー2022/7/29

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どんなに注意していても避けることができないのが災害です。「いざという時に薬は手に入るのか」「かかりつけの病院が使えなくなったら…」など、不安や心配は尽きませんよね。そこで今回は、過去に災害時におけるIBD患者さんへの対応法に関する寄稿文も執筆されている、兵庫医科大学病院 炎症性腸疾患外科 主任教授の池内浩基先生に、IBDと防災をテーマにお話を伺いました。

最低限準備しておくべきものは?

――IBD患者さんが最低限準備しておくべき防災グッズを教えてください

内服治療をされている患者さんが多いので、常時2週間~1か月程度の治療薬は用意しておくのがいいでしょう。もしも余った薬があれば、それを防災バッグに入れておくと、いざという時に安心です。

あとは、トイレやシャワーの問題が大きくなってくるので、ウエットティッシュや紙パンツも用意しておくと良いと思います。ウエットティッシュは感染予防の観点からアルコールが含まれているものと、肌に優しいアルコールが含まれていないものを両方準備しておきましょう。可能であればトイレットペーパーも1ロール入れておくと便利だと思います。

脱水を気にされる方も多いと思いますが、水は重くてかさばるので、たくさん持って避難するのは困難です。脱水に備えて必要な分量の水(最低500mlのペットボトル2本)や、ストーマの場合は、1か月に使用するストーマ装具を防災グッズとして準備しておくのが良いでしょう。

――災害時の食事はどのようなことに気をつければ良いのでしょうか

IBD患者さんの基本はおなかに優しい和食です。おにぎりなどは、避難所にもかなり入ってくると思うので、そういったものから炭水化物をしっかり取るのが良いでしょう。脂っこいものは、できるだけ控えるようにしましょう。

――経腸栄養剤を飲んでいる患者さんはどうしたら良いのでしょうか。完全中心静脈栄養療法TPN)の方に関しても教えてください

ボトルタイプの栄養剤(エレンタールなど)を使われている患者さんが多いと思いますが、かさばるので、たくさん持ち運ぶのは難しいと思います。一方、粉末タイプは、いざという時に粉を溶かす容器の準備などが必要なので、災害時は困ると思います。ですから、可能であれば、手軽に作れるボトルタイプのものを1か月分くらい準備しておくのが良いと思います。

TPNに関しても、1か月分くらいは予備があるという患者さんが多いと思います。手元にあるものを使い切ってしまった場合は、かかりつけの病院に連絡するか、それが難しい場合は、保健所に連絡して相談するのが良いと思います。

最低限、病歴と薬の名前は伝えられるように

――避難時、「おくすり手帳」「保険証」「特定疾患受給者証」が手元にない場合、IBDであることを証明して薬をもらうにはどうしたらいいのでしょうか

IBDであることを証明するというのは、なかなか難しいと思います。災害の規模や行政の対応にもよると思いますが、保険証が手元にない場合は、自由診療になってしまう可能性もあります。ですから、日頃からできるだけ持ち歩くようにしましょう。

また、決まった薬を飲んでいる人でも、本人がその薬の名前を言えなければ、処方することができません。患者さんの中にはご自身が飲んでいる薬の名前を憶えていないという方もおられます。いざという時のために、しっかりと薬の名前を覚えておくことが大切です。覚えるのが難しい場合は、薬の名前を書いた紙を、お財布など肌身離さず持ち歩くものに入れておくようにしましょう。

――いざという時のために、日頃から記録しておいた方が良いことなどあれば教えてください

まず、ご自身がいつIBDを発症して、いつ頃から、どのような治療を開始したのかということを、薬剤名と一緒に記録しておくようにしてください。また、途中で治療を変えた方も多いと思いますが、そのような治療の変遷についても記録しておきましょう。後は、入院歴・手術歴ですね。

――患者さんの中には、日々のトイレの回数や体温などを細かく記録されている方もいるようですが、そのような情報も必要ですか

そこまでの情報はなくても大丈夫です。先ほど申し上げた「病歴、使っている薬の名前、治療の変遷、入院歴・手術歴」がわかれば十分だと思います。

――冷蔵保管の生物学的製剤(自己注射)を使っているのですが、災害時は持っていくべきですか

生物学的製剤は、基本的に2週間以上間隔を空けて投与します。災害時でも1か月経てば状況が落ち着いてくることが多いと思われますので、持って避難したり、取りに帰ったりする必要はないと考えます。

――ストーマの場合、避難所ではパウチの交換などをどうしたらいいのでしょうか

非常に難しい問題ですが、トイレを使うしかないと思います。最近はオストメイト用のトイレがある体育館やサービスエリアなどが増えています。可能であれば、避難所に事前に足を運んで、アクセスなどを確認しておかれるのが良いでしょう。

――かかりつけの病院が使えなくなってしまった場合、他の病院でも適切な治療を受けられますか。悪化してしまった場合、すぐに入院できるのでしょうか

IBD専門医たちは横のつながりがありますので、それぞれの地域でIBDを多く診ている医師や病院を知っています。ですから、その辺はあまり心配しなくて大丈夫だと思います。紹介状も書いてもらえると思います。

ただ、入院に関しては、「水が使えるか」という問題が大きいと思います。水に不自由するほどインフラが悪化していなければ問題ないと思いますが、難しい場合は、他府県の病院を紹介してもらい、そちらに入院することになると思います。また、水に問題がなくても、災害地に医療スタッフが出向いていて病院の医療スタッフが減っている場合なども、対応が変わってくると考えられます。特にIBDの場合は、診療経験のない医師が診療するのは難しいケースもありますので、そのような場合は紹介状を書いてもらって、他府県のIBD専門医のいる病院に行く方が安心かもしれません。

「無理をしない」ということを常に意識して、主治医とともに治療に臨んで

――その他、先生から防災に関してのアドバイスがありましたら、お願いいたします

日本は地震も多いですし、その他の災害もいつ起こるかわかりません。日頃からできることとしては、和食などおなかに優しい食事を心がけ、体調に気を付けるということだと思います。しかし、IBDは再燃寛解を繰り返すことが多いので、どんなに頑張っても再燃を完全に予防するのは難しいと考えます。そのような意味では、「余っているお薬を非難用にとっておく」というのが、一番現実的な災害対策と言えるかもしれません。

――最後に、IBD患者さんへのメッセージをお願いいたします

普段はIBDが専門ではない先生に診てもらっているという患者さんで、ご自身の体調や治療について詳しく知りたいという方は、主治医に一度相談してみてください。おそらく、つながりのあるIBD専門医のいる病院を紹介してもらえると思います。その病院で、年に数回、定期的な診察を受けられれば、より前向きに治療に向き合うことができると思います。今後、このような「病診・病病連携」が、もっと当たり前になっていくと良いですね。

それと、私は外科医なので「適切な手術の時期」についても、主治医と話し合っていただきたいと思います。手術でQOLが向上することもありますし、内科的治療で悪い状態が長引いている方は、外科治療を一度検討してみるのも良いかもしれません。

IBDは長く付き合っていかなければいけない病気です。「無理をしない」ということを常に意識して、主治医と「ともに治療していく」という意識を持って治療に臨んでいただければ幸いです。

(IBDプラス編集部)

池内浩基先生
兵庫医科大学病院 炎症性腸疾患外科 主任教授
池内浩基先生
1987年 兵庫医科大学 医学部 卒業、第二外科入局
2004年 兵庫医科大学 第二外科・講師
2006年 兵庫医科大学 第二外科・助教授
2007年 兵庫医科大学 下部消化管外科・准教授
2009年 兵庫医科大学 下部消化管外科・教授
2013年 兵庫医科大学 炎症性腸疾患学講座 外科部門・主任教授
2019年4月 兵庫医科大学 副学長(2022年3月30日まで)評議員
2019年11月 兵庫医科大学病院 副院長
2020年4月 兵庫医科大学 消化器外科学講座 炎症性腸疾患外科・主任教授
2022年4月 兵庫医科大学 理事

〈資格・所属学会〉
日本外科学会 認定医 専門医 指導医 代議員
日本消化器外科学会 認定医 専門医 指導医 評議員
日本大腸肛門病学会 専門医 指導医 評議員 理事
日本消化器病学会 専門医 指導医 財団評議員 和文編集委員 学術研究支援検討委員会委員
日本消化器内視鏡学会 専門医 指導医
日本臨床外科学会 評議員
日本腹部救急医学会 認定医 教育医 評議員 編集委員
日本消化管学会 専門医 指導医 代議員 理事
日本外科系連合学会 評議員 編集委員
日本炎症性腸疾患学会 理事
厚労省難治性炎症性腸管障害に関する調査研究班 班員

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