これで納得!IBD「NG行動」の理由-食事・睡眠・ストレスを中心に

医師インタビュー2023/9/1

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脂質と食物繊維の取り過ぎはダメ!睡眠不足もタバコもお酒もダメ!など、次から次へと出てくるIBDのNG行動…。でも、「なぜNGなのか聞いていないし、寛解期ならOKなのかもわからない」など、釈然としないまま日々過ごしている人も少なくないはず。そこで今回は、長年多くのIBD患者さんの診療にあたり、栄養療法についても詳しい四日市羽津医療センター副院長 兼 IBDセンター長の山本隆行先生に、NG行動の理由について、いろいろ伺いました。

寛解期・活動期の見分け方、脂質と食物繊維を控えるべき理由は?

――寛解期はOKという行動も多いですが、「寛解の定義」を教えてください

IBDの「寛解」には、「臨床的寛解(臨床症状がない状態)」、「内視鏡的寛解(腸管粘膜に炎症がなく、潰瘍が治癒している状態)」などいくつかの定義があります。一般に「寛解」というと、これまでは「臨床的寛解」のことを指していたかもしれません。しかし、現在は、「臨床的寛解」を達成しているだけでは十分でなく、「内視鏡的寛解」も同時に達成させることがIBDの治療目標になりつつあります。臨床的に症状がなくとも内視鏡検査で病変が残っていると再燃するリスクが高いからです。したがって、これからお話しする際の「寛解」とは、臨床症状がないことに加えて、腸管の病変も非活動期である状態と考えてください。

ご自身が「寛解期」なのか「活動期」なのかを正しく知るには、定期的な検査が欠かせません。クローン病の定期検査では、大腸内視鏡に加え、CT・MRI検査で小腸の炎症状態も診ることが多いです。検査がどうしても耐えられないという場合や、肛門病変があって内視鏡が入らないなどの場合は、血清バイオマーカーLRG)や便中カルプロテクチンなどのバイオマーカーで代用できることがありますので、医師に相談してみてください。

普段は近くのクリニックなど、IBDが専門ではない医師に診てもらっているという方も、ご自身の病状を正しく知るため、1年に1回程度はIBDの専門医がいる病院で検査も含めて行ってもらうのが良いと考えます。

――IBDで脂肪や食物繊維を控えた方が良いのはなぜですか

高脂肪食(乳製品も含む)や加工食品は免疫反応を惹起させて腸管の炎症を悪化させ、病状が悪くなってしまうことがあります。そのため、活動期はできるだけ控えていただくようお願いしています。また、水に溶けない不溶性食物繊維も、病状を悪化させる恐れがあります。特に、狭窄のある方が不溶性食物繊維を取ってしまうと腸管に詰まって腸閉塞を起こす可能性があるので注意が必要です。

反対に、寛解期で狭窄がなければ、過度の食事制限は必要ないと考えます。それよりも、バランスの良い食事を心がけていただきたいですね。ある程度いろいろなものを食べた方が、栄養バランスが整って腸内環境も良くなりますし、食べられないというストレスもなくなります。一方で、摂取量にはご注意ください。たまに、「ごはんやうどんは安心なので、好きなだけ食べています」という方がいますが、安心なものでも取り過ぎれば健康な人でもおなかを壊します。食べる量は、ほどほどを心掛けるようにしてください。

それと、特にクローン病では、食事について「これは絶対ダメ!」と決めつけてしまっている方や、病院で厳しすぎる栄養指導を受けている方も少なくありません。かつてはそれが当たり前の時代もありましたが、今は治療選択肢が増え、食事に対する考え方も大きく変わってきています。ですから、IBDの食事に関する最新の知識を持った専門家の指導を受けるようにしてください。

――病院で栄養指導を受けていない場合はどうすれば良いのでしょうか

IBDプラスのレシピを参考にするのも良いと思いますし、食べ物の名前を入れると栄養価を自動で計算してくれるサイトなどもありますので、そういったものを上手に活用されるのが良いと思います。

どんな油を選べばいい?辛い物、アルコール、タバコ、カフェインがNGな理由は?

――脂質と食物繊維がIBD患者さんの腸に与える影響を教えてください

脂質にもいろいろな種類があります。IBDの活動期に適切ではない脂質としては、ケーキのショートニングなどに含まれる「トランス脂肪酸」、お肉に含まれる「飽和脂肪酸」、サラダ油や卵などに含まれる「オメガ6系脂肪酸」などがあります。活動期にこれらを取り過ぎてしまうと腸管の炎症を惹起させて病態が悪化してしまうことがあります。オリーブオイルは「一価不飽和脂肪酸(主にオレイン酸)」から構成され、抗酸化作用を有しています。また、腸管の炎症を軽減する可能性もあります。ただし、過剰に摂取することは避け、バランスの取れた食事の一部として摂取することが大切です。また、オリーブオイルの抗酸化作用は高温で失われる可能性があるため、サラダのドレッシングや加熱しない料理に用いることをお薦めします。

えごま油、アマニ油、しそ油などに多く含まれる「オメガ3系脂肪酸」は腸管に良い影響を与えると言われていますので、特に寛解期は積極的に取っていただいて良いと考えます。ただし熱に弱いので、調味料とあわせてドレッシングにするなど、できるだけ加熱せずに使うようにしてください。

食物繊維に関してですが、オートミールや果物に含まれる「水溶性食物繊維」は便通を良くするなど、腸に良い影響を与えます。ですから、寛解期は適度な量を取っていただいて良いでしょう。一方で、果物の皮や玄米に含まれる「不溶性食物繊維」は、活動期や狭窄のある患者さんが取り過ぎると調子が悪くなることがあるので注意が必要です。

――食物繊維の取り方について、例えばイチゴは生で食べるより柔らかいジャムが良いなど違いはあるのでしょうか

個人的には、よく噛んで食べればあまり変わらないと思います。調理法に関しては個人差が大きいので、例えば生で食べても大丈夫なのであれば、無理に加熱する必要はないと考えます。不溶性食物繊維も絶対に食べたらNGということではなく、寛解期で狭窄がなければ、繊維を細かく刻むなどの工夫をして食べることは十分可能です。

――辛い物は腸にどのような影響を与えるのでしょうか

辛みの成分には炎症悪化につながる物質「カプサイシン」が含まれています。そのため、胃腸の機能が亢進したり、胃酸の分泌が過多になってしまったりします。食べたくなる気持ちはわかりますが、活動期は特に控えた方が良いと思います。寛解期は適量であれば取ることは可能だと思いますが、取り過ぎは悪化につながりますので、十分注意してください。

――アルコールやタバコがIBDに悪い影響を与える可能性はありますか

アルコールは腸管の炎症を悪化させる可能性がありますし、栄養素の吸収障害を起こす恐れもあります。また、最近では腸内細菌叢を変化させるとも言われていますので、活動期でも寛解期でも十分に注意してください。ただ、「断酒」となるとストレスが溜まり、それで悪化してしまう方もいますので、「たしなむ程度にしてください」とお伝えしています。

タバコは、クローン病の方には「絶対に禁煙してください」とお伝えしています。タバコを吸う人はクローン病になりやすいというデータがありますし、病状悪化や手術率も高いと言われています。また、手術後もタバコを吸っている人は再手術になる確率が高いと言われていますし、やめると再発率が低下します。これらは全てエビデンスがあります。潰瘍性大腸炎に関しては、昔はニコチンが治療に使えるなどと言われていましたが、今は健康のことを考えて、クローン病と同じく禁煙をお願いしています。

――カフェイン飲料や炭酸飲料についてはいかがでしょうか

カフェインは中枢神経系に影響を与え、胃腸症状を悪化させたり、運動機能を亢進させると言われています。炭酸飲料も腸を刺激し、飲むとおなかが張ったような感じがしますので、活動期は控え目にしてください。また、炭酸飲料には思った以上に多くの糖分が含まれており、最近では「ペットボトル症候群(糖分の多い飲料の大量摂取で起こる急性の糖尿病)」になってしまう患者さんもいますので、炭酸飲料のみで水分補給することはやめてくださいね。

睡眠不足とストレスがIBDに良くないと言われる理由は?

――睡眠不足がIBDに悪い影響を与える可能性はありますか

あると思います。睡眠不足で腸内細菌叢のバランスが崩れたり、栄養の吸収が悪くなるというエビデンスがありますので、睡眠はしっかり取っていただきたいです。何日も眠れないという方はためらわずに一度専門の病院を受診して、適切な睡眠導入剤を処方してもらうのが良いと思います。

――シフト制で日勤と夜勤が頻繁に入れ替わるというような方もおられますが…

それが原因で不眠になっている、IBDの病状が悪化しているというような方は、一度主治医に相談して「病気があるためシフトを考慮して欲しい」といった内容の診断書を書いてもらうのが良いと思います。

――ストレスとIBDとの関係については、どのようにお考えでしょうか

ストレスには、免疫反応を悪化させる腸内細菌叢を乱れさせるというエビデンスがあるので、できるだけ溜めないようにしてください。自分に合ったリラクセーション法を探してみるのも良いでしょう。それでもつらい時は我慢せず、メンタルクリニックで抗うつ剤を処方してもらうなど、主体的なストレスのコントロールを心掛けていただければと思います。

――その他、意外と患者さんに知られていないNG行動があれば教えてください

「自己判断」で薬を止めるのは絶対にNGです。例えば、ステロイドを高用量服用しているのに、具合が良くなったからといきなり飲むのを止めてしまう人がいますが、本当に危険です。今は治療選択肢も増えているので、自己判断せずに医師としっかり話し合うようにしてください。また、「治療を続けさえすれば自然と良くなる」と思っている人がいますが、腸の病気は生活と密接に関係しています。ですから薬に頼るのではなく、規則正しい生活を心掛け、ストレスフリーな生活を送るための工夫をしてみてください。

モヤモヤした気持ちは抱え込まず、医療スタッフに打ち明けてみて

――IBD患者さんにメッセージをお願いします

医師はIBDの症状スコアや検査結果などを見て病状を判断していますが、患者さんは日常の不安や職場でのストレスがあったりして、医師が言うほど良い状態ではないと思っている方もおられます。そのような時は、モヤモヤした気持ちを抱え込むのではなく、僕たちに打ち明けてみてください。医師には話しにくいというのであれば、看護師など、他の医療スタッフでも構いません。打ち明けていただくことで、悩みを解消するための手助けができるかもしれません。その一歩が踏み出せれば、きっと今より良い日常に変わっていくのではないかと思います。

(IBDプラス編集部)

山本先生
四日市羽津医療センター副院長 兼 IBDセンター長
山本隆行先生
1989年 三重大学医学部 卒業、同 医学部 第二外科入局
1997~1998年 英国バーミンガム大学クィーン エリザベス病院外科(Keighley教授)にて、リサーチフェローとしてIBD外科治療について臨床研究
2001年~ 四日市社会保険病院(現 四日市羽津医療センター)勤務
2005~2006年 米国オハイオ州クリーブランド クリニック(Fazio教授)大腸外科にて、リサーチフェローとして臨床研究
2018~2021年 四日市羽津医療センター 主任外科部長 兼 IBDセンター長
2021年~ 同 診療統括部長 兼 IBDセンター長
2022年~ 同 副院長 兼 IBDセンター長

〈資格・所属学会〉
日本消化器病学会(専門医・指導医)
日本外科学会(専門医・指導医)
日本消化器外科学会(専門医・指導医・消化器がん外科治療認定医)
日本大腸肛門病学会(専門医・指導医)
三重大学医学部 臨床教授

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