「水分摂取不足」で腸内環境が悪化、病原菌を排除する能力が低下すると判明
水分が足りないと「腸内環境」はどのように変化するのか?
北里大学と慶應義塾大学の研究グループは、飲水不足が腸内環境を悪化させ、病原細菌の排除能を低下させることを発見したと発表しました。
水は成人体重の50%以上を占める最大の生体構成要素であり、消化吸収や栄養素・老廃物の運搬、体温調節などの多様な機能を担っています。生体の水分摂取源は主に飲水・食事・代謝の3つとされており、そのうち70〜80%の水分は飲水によるものとされています。米国では成人の半数以上が適切な水分摂取基準を慢性的に下回っており、慢性的な水分摂取不足は、肥満やインスリン抵抗性、糖尿病などの代謝性疾患や、便秘症など腸管の機能低下と関連していることが報告されています。また、飲水量が多い人と少ない人では、一部の腸内細菌の存在量に違いがあることや、便秘症患者さんでは免疫細胞集団の構成変化が報告されていました。
しかし、これまでの研究では、「アルコール摂取・運動量・食事習慣」など、腸内細菌叢や免疫系に影響を与える因子を多く含んでおり、水分摂取が腸内環境にどのように影響するかについては明らかにされていませんでした。そこで研究グループは今回、水分摂取量を制限した場合の腸内環境を詳細に解析するため、マウスを用いた研究を行いました。
25%と50%の飲水制限、脱水症状を伴わずに「体重低下」や「便秘症」を引き起こす
まず、自由に水分摂取が可能なマウスに対して25%または50%の飲水制限を2週間実施しました。すると、飲水制限マウスの体重が低下。また、50%の飲水制限マウスでは大腸通過時間(食事をしてから便が排泄されるまでの時間)が約2倍近く延長しました。さらに、25%と50%の飲水制限マウスは糞便水分量や糞便排出量も有意に低下し、便秘症を引き起こしました。一方、血液中の脱水のパラメータを評価したところ、いずれの項目でも変化は見られず、飲水制限マウスは脱水症状ではないことがわかりました。
以上のことから、25%と50%の飲水制限は、脱水症状を伴わずに体重低下や便秘症を引き起こすことが明らかになりました。
飲水制限は腸内細菌の数や構成を変化させ、大腸の物理的バリアも破綻させる可能性
次に、腸内細菌叢への影響を検証したところ、飲水制限マウスでは、糞便中の総菌数が有意に増加していることが明らかになりました。また、大腸組織の腸内細菌や粘液層を観察してみると、通常マウスの大腸粘膜では連続した、くっきりとした層を形成しているのに対し、飲水制限マウスでは粘膜層がぼやけ、一部の粘膜層が途切れていることがわかりました。さらに、50%の飲水制限マウスでは、局所的に「細菌が大腸上皮組織内へ侵入」していることが判明。また、腸内細菌叢の構成を解析してみると、特定の腸内細菌の存在量が変化していることが明らかになりました。
これらのことから、飲水制限は腸内細菌の数や構成を変化させるだけでなく、大腸における物理的バリアを破綻させる可能性が示唆されました。
十分な水分摂取が、腸内細菌叢や免疫系の「恒常性・防御応答維持」に重要と判明
次に、飲水制限が大腸における免疫細胞集団に影響を与えるか検証した結果、免疫系で重要な働きをする細胞の割合が減少することが明らかになりました。
研究グループは「飲水制限で、病原細菌の排除能も低下するのではないか」と考え検証した結果、病原細菌に対する防御応答に関わる「Th17細胞」が減少し、腸管病原性細菌の排除が遅れることがわかりました。さらに、細胞内に水を取り込むためのタンパク質アクアポリン3を欠損させたマウスの大腸では、Th17細胞が著しく減少していることが判明しました。
以上のことから、十分な水分摂取が腸内細菌叢や免疫系の恒常性、腸管病原細菌に対する防御応答を維持するための重要な因子であることが示されました。
成人の1日に必要な水分量は2.5Lと推定されていますが、多くの人が水分摂取不足であると考えられています。飲水不足については、代謝性疾患など、多くの疾患との関連性が指摘されています。
研究グループは「日常的な水分摂取量と消化器系疾患との関連性について明らかにしていくことが、水分摂取の潜在的な重要性を腸内環境の恒常性維持という観点から理解する上でとても大切だ」と、述べています。
(IBDプラス編集部)
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