腸内細菌が必須ミネラル「セレン」の吸収を助けるはたらきをしていることが判明
食事の好き嫌いによるセレンの偏りを、腸内細菌がフォロー
千葉大学大学院薬学研究院 予防薬学研究室の小椋康光教授と同医学薬学府博士課程3年の髙橋一聡大学院生らの研究グループは、体の中ではごくわずかしか存在しないものの、健康の維持に欠かせない「セレン」という元素が、腸内細菌叢のはたらきにより、効率よく体に吸収される仕組みを解明したと発表しました。
セレンは、人間が生きていく上で欠かせないミネラルですが、体重が60kgの人でも、体内にわずか10mg程度しか存在していません。しかし、セレンが不足すると、髪の毛が抜けたり、爪が変形したり、重度の場合は死亡することもあります。
人間は、セレンを肉、魚、野菜などから摂取しており、成人男性の1日あたりの推奨摂取量は30マイクログラムとされています。セレンは、アミノ酸に含まれていたり、塩や糖に含まれいたりとさまざまな形で食べ物に含まれており、体内への吸収されやすさなど、栄養学的な価値も異なると考えられていました。
その一方で、肉、魚、野菜の好き嫌いでセレン不足になったという事例は報告されていません。また、体内のセレン存在量、1日あたりの必要量、食事中の含量などでも、その量が非常にわずかであるため、詳しい消化・吸収・代謝・排泄の仕組みは明らかにされていませんでした。
研究グループは今回、セレンのはたらきに腸内細菌が関係しているという仮説を立て、ラットを使った実験を行いました。その結果、腸内細菌叢がミネラルを栄養源として利用できるように変換していることがわかりました。つまり、食事の好き嫌いによって摂取するセレンの形に偏りがあっても、腸内細菌叢に含まれるさまざまな種類の細菌が、協調してセレンの利用を補助するはたらきをしていることがわかったのです。
さらに、セレン化合物から取り出した栄養源を、腸内細菌が自分の中に貯蔵していることも判明しました。
中心静脈栄養などで消化管を経由しない人のセレン摂取は、より慎重に行うべき
これらの結果から、食品中からごくわずかしか摂取できないセレンを、腸内細菌叢が栄養源に変え、さらに貯蔵するというはたらきにより、効果的なミネラル摂取のサポートをしていることが明らかになりました。このような腸内細菌叢の役割が明らかになったのは、今回が初めてだそうです。
研究グループは、「長期に中心静脈栄養を摂取している患者さんや、特殊な栄養成分のミルクを飲んでいる乳児は、セレンの欠乏症状がしばしば見られます。そのため、輸液や粉ミルクにはセレンが添加されますが、消化管を経由しないセレンの摂取や、腸内細菌叢が未熟な小児では、腸内細菌によるサポートが期待できないため、今後はより慎重なセレンの配合を考えていく必要があります」と、述べています。
IBD界隈でも注目を集める腸内細菌。そのはたらきが解明されることは、IBDの新しい治療の誕生にもつながっていくかもしれません。
(IBDプラス編集部)
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