熊本地震、そのときIBD患者は―アンケートからみた必要とされる災害への備え

ニュース2017/10/27

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熊本地震の経験から、IBD患者用マニュアルの必要性を痛感

炎症性腸疾患(IBD)では治療薬の特殊性などから、災害に巻き込まれると治療の中断を余儀なくされる事態も想定されます。熊本県 大腸肛門病センター高野病院では、同院のIBD患者を対象に、2016年4月の熊本地震に関するアンケート調査を実施。同院薬剤師の寺本拓哉氏は、10月8~9日に行われた第50回日本薬剤師会学術大会で調査結果を発表し、災害時の対応として患者がお薬手帳を常時携帯することや、5~7日分の処方薬を備蓄しておくことなどが必要だと述べました。

高野病院は、大腸肛門疾患を専門とする166床の病院で、潰瘍性大腸炎(UC)やクローン病(CD)の専門的な診療も行っています。同院では内服薬による治療のほかに、生物学的製剤であるアダリムマブの自己注射、在宅経管経腸栄養法(HEN)、在宅中心静脈栄養法(HPN)などを実施している患者も多いのが特徴です。

熊本地震の発生時には、被災したIBD患者から様々な相談が寄せられました。この経験から、同院ではIBD患者用災害時マニユアルの必要性を感じ、マニュアル整備に先立ってアンケート調査を実施しました。

被災時にも役立つお薬手帳、常に携帯を

アンケートは、2016年10~12月に同院消化器内科を受診し、アンケート実施に同意が得られた251人(UC患者166人、CD患者85人)を対象に行いました。アンケートでは、薬剤師、看護師、栄養士、事務職員の各職種が確認したい11項目について調査しましたが、寺本氏が今回発表したのは、薬に関する4項目の結果についてです。

まずは、お薬手帳について。「お薬手帳を常に携帯している」と回答したのはUC患者の32%、 CD患者の33%で、結果として患者の7割弱がお薬手帳を常時携帯していないという実態が浮かび上がりました。

「病状管理・体調維持に欠かせない薬があるかどうか」についての質問では、「ある」と回答した人はUC患者の78%、CD患者の84%。必須薬で多かったのは、UC患者ではメサラジン錠、メサラジン腸溶錠、サラゾスルファピリジン錠、ステロイド薬、CD患者ではメサラジン錠、経腸栄養剤、アダリムマブの順でした。

こうした薬などの予備があるかについて質問したところ、UC患者では「ある」が60%、「ない」が24%、未回答が16%、CD患者では「ある」が66%、「ない」が16%、未回答が18%でした。「ある」と回答した人の備蓄日数は、UC患者では「1~3日分」が22%、「4~7日分」が20%、「8~14日分」が15%、「15日以上」が19%、CD患者では「1~3日分」が20%、「4~7日分」が28%、「8~14日分」が25%、「15日以上」が16%でした。

薬に関して困ったことについて記述式で質問したところ、「避難先で薬が足りなくなった」、「道路の寸断で通院できず薬の受け取りに苦労した」、「停電でアダリムマブを保冷できなかった」、「薬の予備はあったが家から取り出せなかった」、「HPN用の輸液や物品が破損したため、再度処方してもらわなければならなかった」、「水が足りず成分栄養剤内服が困難だった」、「避難所や車中泊のためHENや注腸剤をふだん通り続けることができなかった」などの回答がありました。

寺本氏は、災害時にかかりつけの医療機関や薬局に行けない場合、お薬手帳の提示で他の医療機関や救護所などで治療薬を受け取れるなど、さまざまな措置が受けられることから、お薬手帳の携帯を勧めるとともに、熊本地震の状況をふまえ、予備として5~7日分程度の薬剤を備蓄する必要性を訴えました。

治療方法ごとに必要な備蓄も異なる

さらに、成分栄養剤は水に溶かす必要があるため、成分栄養剤を使用している患者は、水あるいは水へ溶かす必要がない半消化態栄養剤や市販の栄養補助食品の備蓄が必要になります。

HPN施行中の患者は、栄養や水分摂取の大半を輸液に頼っていることから、治療の中断が生命の維持に直結しかねない危険性をはらんでいます。このため高野病院では、災害時の患者さんへの連絡体制や必要薬剤、物品、それらの代替品などに関する緊急時マニュアルを作成し、病院での輸液、物品、清潔操作のための手指消毒薬やウェットティッシュの備蓄の検討も開始しています。

一方、アダリムマブを自己注射している患者は、自宅などの冷蔵庫で注射液を保管しなければなりません。大規模災害では停電も発生しやすく、停電すると保管状況に問題が生じます。熊本地震の際、高野病院では製造販売元の製薬会社に問い合わせをしましたが、アダリムマブについて、温度変化などに伴う薬剤の安定性に関する日本国内でのデータがなく、適切な指導が困難でした。寺本氏は「緊急時の対応について、製薬会社に検討してもらうよう、依頼を続けていく必要がある」と話しています。

(村上和巳)

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