高齢になると腸の「抗菌ペプチド」が減少し、腸内細菌叢に影響を与えることが判明
抗菌ペプチド「αディフェンシン」が腸内細菌叢を調節して腸管の恒常性を維持
北海道大学大学院先端生命科学研究院の中村公則准教授、綾部時芳教授と、同大大学院医学研究院の玉腰暁子教授らの共同研究グループは、小腸のパネト細胞から分泌される自然免疫の作用因子である抗菌ペプチド「αディフェンシン」が、高齢者では若年者に比べて低いことを示し、そのことが高齢者における腸内細菌叢の変化(遷移)に関与していることを初めて明らかにしたと発表しました。
中村准教授らの研究グループはこれまでに、小腸のパネト細胞が分泌するαディフェンシンが腸内細菌叢を調節することで、腸管の恒常性維持に貢献していることを明らかにしていました。
一方、腸内細菌叢の異常が、免疫疾患、糖尿病などの生活習慣病、うつ病や自閉症、大腸がんなど、さまざまな病気に関与することが報告されています。加齢に伴うパネト細胞の機能異常が腸内細菌叢を変化させ、疾患リスクを亢進させる可能性が考えられますが、加齢がαディフェンシン分泌へ及ぼす影響は不明でした。そこで研究グループは今回、高齢者でパネト細胞からのαディフェンシン分泌量が減少することにより、腸内細菌叢の変化が起きるのではないかという仮説を立てました。
高齢者では抗菌ペプチド分泌量の低下が腸内細菌叢の変化に深く関与
仮説を証明するため、北海道寿都町居住者対象の「健康に暮らせる町づくりを目的とした生活習慣および健康状態の調査」に参加した消化器病の治療を受けていない196人の健常者から提供を受けた便を用いて、加齢がαディフェンシン分泌量と腸内細菌叢に与える影響を解析しました。
その結果、健常成人のαディフェンシンは、年齢が高い人ほど分泌量が低下し、さらに中高年者に比べて、70歳を超える高齢者ではαディフェンシンが有意に低いことが明らかにされました。さらに、高齢者では腸内細菌の多様性が中高年者と異なることも発見されたそうです。これらのことから、高齢者ではαディフェンシン分泌量の低下が腸内細菌叢の変化に深く関与していることが示唆されました。
腸内細菌に関する疾患の予防や新規治療の開発など、健康寿命延伸への貢献に期待
これまで新生児期から老年期にかけて腸内細菌叢の組成が変化していくことはよく知られていましたが、そのメカニズムの詳細は不明でした。今回、加齢に伴う腸内細菌叢の変化のメカニズムとして、αディフェンシンの重要性が明らかにされました。「今後、腸内細菌叢の異常が関与するさまざまな疾患の予防や新規治療の開発を通して、健康寿命の延伸に貢献することが期待される」と、研究グループは述べています。
これまで、年を取って病気になるのは仕方ないと考えられていましたが、腸内細菌叢の異常を予防することができれば、それを原因とする疾患は予防することができるかもしれないということですね。研究の進展に期待しましょう!
(IBDプラス編集部)
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