学生アスリートの腸内環境は深刻?大学ラグビー選手の調査結果でわかった食物繊維不足
ニュース | 2021/10/13
腸炎を抑える「酪酸」が少なく、腸炎につながる「コハク酸」が多いと判明
摂南大学農学部応用生物科学科の井上亮教授らと京都府立医科大学の研究グループは、摂南大学ラグビー部員の腸内環境調査を行い、学生アスリートの腸内環境が深刻な状況であることを明らかにしたと発表しました。
トップアスリートと違い、学生アスリートの栄養については十分なサポートが行き届かないなどの課題があります。また、学生アスリートが日頃起こす下痢や軟便は、本人や指導者にとって習慣化してしまい、あまり問題視されることはありません。
そこで研究グループは、同大ラグビー部員88人を被験者として腸内環境を調べ、一般健常人の数値と比較調査を行いました。また、2014年にラグビーアイルランド代表チームの腸内環境が一般健常人よりも良いことが報告されているため、同ラグビー部員との比較も行いました。
その結果、学生アスリートの腸内では炎症を喚起し、ランナー下痢の原因とも考えられている「コハク酸」(悪い物質)の量が多く、大腸炎患者レベルに達している選手もいることがわかりました。一方、炎症を抑えて免疫を調整する「酪酸」(良い物質)は、一般健常人より低いうえ、被験者の4人に1人は検出すらされなかったということです。
「食物繊維を軽視する傾向」と「栄養に関する知識不足」が要因
酪酸は酪酸菌が作り出しますが、酪酸菌を含む食品は少なく、食事の工夫で酪酸菌を育てる必要があります。そのためには、酪酸菌のエサとなる「食物繊維」が重要ですが、被験者のラグビー部員の腸内には食物繊維の摂取量が少ないと増える「コリンセラ菌」が、一般健常人の2倍以上多く存在していました。また、比較対象であるアイルランド代表ラグビー選手は1日4,500kcalの食事で39gの食物繊維を摂取しているのに対し、同大ラグビー部員は4,000~4,800kcalの食事で12~14gしか摂取しておらず、一般健常人の平均摂取量17gよりも少ないことがわかりました。
食物繊維不足に関する一つの原因として、一般的に学生アスリートはタンパク質や炭水化物が体づくりに大事と考えてこれらを重要視する傾向があり、「食物繊維を軽視している」ことが挙げられます。食物繊維の摂取量は日本人の食事摂取基準では「男性で1日21g」が目標とされていますが、これは食べる量に応じて増やす必要があります。そのような知識が学生アスリートに乏しいことも要因の一つである可能性が考えられます。
1日40gの食物繊維摂取で善玉菌が大きく増加した例も
被験者の1人で、現在、東芝ブレイブルーパスに所属する同大卒業生の高城勝一選手に卒業前の4週間、サプリメントと食事で1日40gの食物繊維を取ってもらったところ、摂取前には検出できなかったビフィズス菌や酪酸菌などの善玉菌が大きく増え、コハク酸の量は5分の1に減少したそうです。
さらにその結果、ラグビー部所属時のエネルギー摂取量を変えずに体重(筋肉量)が増加し、便通が改善、以前はよく出ていたニキビが治るなど、劇的な体調の改善が見られたということです。これを受け、現在、食品企業の協力のもと、ラグビー部員の腸内環境の改善を試みており、機能性食品(サプリメント)の摂取だけでも腸内環境が改善される可能性が明らかになりつつあるとしています。
研究グループは、「学生アスリートの栄養改善によるパフォーマンスのさらなる向上を目指して、管理栄養士である助手の協力も得て、今後も研究を続ける」と、述べています。
(IBDプラス編集部)
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