潰瘍性大腸炎の「内視鏡評価」と「予後予測」を、AIが専門医レベルで行うことに成功
ニュース | 2021/12/6
「内視鏡的」「組織学的」な寛解の評価には潰瘍性大腸炎に対する豊富な知識と経験が必要
東京医科歯科大学消化器内科の竹中健人助教、同大高等研究院の渡辺守特別栄誉教授、同大病院光学医療診療部の大塚和朗教授と、ソニー株式会社の共同研究グループは、潰瘍性大腸炎(UC)の内視鏡画像に基づくコンピューター画像支援システム(DNUC; deep neural network system based on endoscopic images of ulcerative colitis)を開発したと発表しました。
UCの炎症をコントロールするためには、症状寛解だけでなく粘膜治癒を達成することが重要で、そのためには下部消化管内視鏡で「内視鏡的な寛解」と「組織学的な寛解」を評価する必要があります。しかし、それにはUCに対する知識や経験が必要なのはもちろんのこと、評価が医師の主観に基づくため、相違が生じることも問題視されていました。また、組織学的な寛解評価のためには内視鏡検査で粘膜生検を採取する必要があり、それに伴う合併症が避けられませんでした。
そこで共同研究グループは、深層学習というAI技術を用いてUCの内視鏡画像に基づくDNUCを開発し、その精度を検証しました。
DNUCの寛解診断精度は90%以上、予後予測も専門医と同等
875人のUC患者さんを対象に検証した結果、「内視鏡的な寛解」に対する精度は90.1%、「組織学的な寛解」に対する精度は92.9%だったそうです。
その後、同じ患者さんを対象に下部消化管内視鏡後の臨床経過(予後)を1年検討しました。すると、DNUCが「内視鏡的な寛解」および「組織学的な寛解」と評価した患者さんでは、「再燃・ステロイド使用・入院・手術」の発生率が低いことが判明。DNUCの予後予測の精度を調べたところ、全ての予後について、UC専門医と同等だったということです。
81%の生検組織の病理結果を予測可能、内視鏡スコアも高精度で算出可能
さらに、開発したAIシステムを内視鏡動画にも適応させ、内視鏡装置とDNUCが搭載されたパソコンをつなぐことで「リアルタイムな組織学的評価」と「一定の内視鏡スコア算出」を可能にしました。
東京医科歯科大学病院と大学関連4病院で多施設前向き研究(ある要因がその後どのような影響を及ぼすかを調査する研究)を行って精度を検証し、「リアルタイムな組織学的評価」については、臨床的寛解のUC患者さん180人を対象に、生検組織の病理結果とDNUCの結果を比較しました。
その結果、DNUCで81.0%の生検組織について病理結果を予測可能とわかり、感度と特異度はそれぞれ97.9%と94.6%でした。「一定の内視鏡スコア算出」については、UC腸炎患者さん590人を対象に、UC専門医とDNUCがそれぞれ算出した内視鏡スコアを比較したところ、非常に高い一致を示したそうです。
将来的にはDNUCが病気の重症度や治療効果を評価する基準になる可能性も
今回の研究で、DNUCは「内視鏡的な寛解」を高い精度で評価するだけでなく、内視鏡スコアの算出も潰瘍性大腸炎専門医と同様に行うことが可能だということがわかりました。また、DNUCは同じ動画からは常に同じ内視鏡評価を出力するため、「いつでも」「どこでも」「だれでも」同様の内視鏡評価が可能です。そのため、将来的にはDNUCが病気の重症度や治療効果を評価する基準になると考えられます。さらに、これまで組織評価のために粘膜生検の採取が必要でしたが、DNUCを用いることで、内視鏡施行中の組織評価が可能となり、必要な粘膜生検の回数やリスクを減らせるとしています。
研究グループは「DNUCが臨床現場で必要となることを強く確信し、臨床応用できることを目指している。引き続き臨床現場での実現可能性について検討を進め、将来的には世界中で、潰瘍性大腸炎に対する内視鏡評価の方法や基準が変わる可能性を期待している」と、述べています。
(IBDプラス編集部)
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