「腸管の再生」と「がん化」に共通して重要な腸の仕組みを発見

ニュース2022/3/29

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腸管が障害を受けた後に再生するメカニズムは?

九州大学生体防御医学研究所の中山敬一主幹教授と比嘉綱己研究員らの研究グループは、腸管上皮の再生に必要な組織幹細胞を新たに発見し、腸管の再生やがん化の過程に重要な現象を明らかにしたと発表しました。

哺乳類の腸管上皮にはLgr5というタンパク質を目印として出している幹細胞の「Lgr5発現細胞」が存在しており、組織を「平常」に保つ役割を担っています。このLgr5発現細胞は、化学物質や放射線などの組織傷害を受けると完全になくなってしまいますが、腸管上皮は問題なく維持されます。このことから、「Lgr5発現細胞以外に、腸管の傷害後再生に重要な幹細胞集団が存在する」ということが想像できますが、そのような幹細胞の実体や、再生のメカニズムは不明でした。

組織がダメージを受けると分化細胞が幹細胞に戻り、再生に重要な役割を果たす

研究グループは今回、造血幹細胞や神経幹細胞の細胞周期停止に重要な「p57遺伝子」が、腸管上皮でも働いていることを発見しました。そこで、マウスを用いてこの遺伝子が働いている細胞(p57発現細胞)を詳しく解析。すると、通常は特定の細胞(分化細胞)として存在していますが、組織がダメージを受けると脱分化(分化する前の状態に戻ること)して幹細胞に戻り、腸管の再生に重要な役割を果たすことがわかりました。

さらに、本来は腸管に存在しないはずの「胎児の腸管」や「胃上皮」に特徴的な遺伝子がたくさん働いていることが判明。腸管の傷害後再生では、細胞の大規模な再構築(リプログラミング現象)を経て、幹細胞に逆戻りしていることが明らかになりました。

一方で、p57発現細胞は、発がんモデルマウスの腸管腫瘍で「がん幹細胞」として機能しており、腫瘍内でも同様のリプログラミング現象が起こっていることがわかりました。これらの結果から、正常腸管上皮に備わっている再生システムが、がん化にも利用されていることが示されました。

がんの新規治療開発や再生医療などへの応用に期待

今回の研究により、正常腸管上皮と腸管腫瘍の組織再生メカニズムの一端が明らかにされました。「今後、がんの新規治療開発や再生医療などへの応用が期待される」と、研究グループは述べています。

決まった役割をもつ「分化細胞」が、組織の障害を感知して、ピンチヒッターとして幹細胞に戻り組織修復をお手伝いするなんて、心底「人体の不思議」を感じました。しかし皮肉なことに、同じ仕組みががん化にも関わるようなので、今後、それを止める方法が見つかることを願います。

(IBDプラス編集部)

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