さまざまな炎症性疾患の病状を改善できる核酸医薬の開発に成功、マウスで効果を確認

ニュース2022/6/2 更新

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既存治療が効かない人のために、炎症を制御する新たな治療法が必要

京都大学大学院医学研究科の竹内理教授らの研究グループは、免疫細胞の活性化や炎症を抑えるブレーキとして働く「Regnase-1(レグネース-1)」の働きを増強することで免疫細胞の活性化を抑え、急性呼吸促拍症候群、肺線維症、多発性硬化症モデルマウスの病状を改善する方法の開発に成功したと発表しました。

マクロファージやT細胞などの免疫細胞は、細菌やウイルスなどの病原体が感染すると活性化し、サイトカインなどの免疫に関わる物質を作り、細胞外に分泌して炎症を起こします。適度な炎症や免疫細胞の活性化は、感染した病原体の排除に重要です。しかし、炎症の過剰な活性化や慢性化はさまざまな炎症性疾患の発症につながることがわかっており、「自己免疫疾患」にも炎症が深く関与しています。

ヒトの自己免疫疾患には、潰瘍性大腸炎、慢性関節リウマチ、多発性硬化症など、多くのものが知られています。治療には「免疫抑制剤」や「生物学的製剤」が用いられていますが、いまだ効果が得られない患者さんも存在しています。そのため、新たな「炎症制御法」の開発が求められていました。

免疫細胞の活性化や炎症を抑える免疫応答のブレーキ「レグネース-1」に着目

免疫細胞の活性化は、通常は緻密に制御され、過剰な活性化が起こらないようになっています。中でも「レグネース-1」は、免疫応答のブレーキとして働くタンパク質として知られています。実際に、レグネース-1が機能しないマウスでは、免疫系の暴走が起こり、自己免疫性炎症性疾患を発症します。また、近年の研究では、ヒト潰瘍性大腸炎の上皮でレグネース-1の機能が本来より強くなるような変異が見つかっています。これらのことから、レグネース-1は、「mRNA量の調節」という働きにより免疫応答にブレーキをかけていることから、「抗サイトカイン治療」や「免疫抑制剤」とは異なる、炎症性疾患の新たな治療法に結びつくと考えられます。しかし、これまでレグネース-1の働きを調節する方法は開発されていませんでした。

研究グループは今回、レグネース-1の働きを高めることにより、免疫応答・炎症のブレーキを強める手法の開発に取り組みました。

レグネース-1は、体内で増えると自己分解することがわかっていたため、それを阻止してレグネース-1の量を増やす核酸医薬を設計。この核酸医薬は専門的に言うと、モルフォリノオリゴ修飾核酸(MO核酸)という種類の核酸を用いた「アンチセンスオリゴ核酸」で、「レグネース-1標的MO核酸」という呼び方になります。このレグネース-1標的MO核酸を合成し、マウスの免疫細胞で実際にレグネース-1の発現量が増加することを確認しました。

そこで、マウスの体内でレグネース-1標的MO核酸の効果を検証。疾患の原因が「免疫細胞の活性化」と考えられる、急性呼吸促拍症候群や、肺線維症、多発性硬化症のモデルマウスをレグネース-1標的MO核酸で治療したところ、病状の改善に成功しました。

ヒト用に設計した「MO核酸」でも免疫細胞を抑制する効果を確認

さらに、ヒト用のアンチセンスオリゴ核酸を設計・合成して検討したところ、ヒトの免疫細胞でもレグネース-1の発現を増強させ、免疫刺激によるサイトカイン産生を抑制する機能を発揮することが確認されたそうです。

また、自己免疫疾患の一つである多発性硬化症の患者さんで、血液細胞中のレグネース-1の発現が高い方が、MRI検査で認められる病変部位の大きさが小さい(逆相関がある)ということもわかったとのことです。

「難治性の炎症性疾患の治療薬」にすることを目指す

今回の研究成果により「レグネース-1標的MO核酸」が、さまざまな炎症性疾患を軽減することが明らかになりました。また、マウスだけでなくヒト用に設計したレグネース-1標的MO核酸もヒトの細胞で効果を示したことから、「将来的に、難治性の炎症性疾患の治療に発展させていくことを視野に入れている」と、研究グループは述べています。

「レグネース-1標的MO核酸」がIBD治療薬として登場してくれる日が楽しみですね。

(IBDプラス編集部)

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