IBDにおける漢方「大建中湯」の働きをマウスで解明

ニュース2022/6/14

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大建中湯の効能は実感できても「作用メカニズム」は不明だった

理化学研究所の研究グループは、マウスを用いて炎症性腸疾患(IBD)における漢方「大建中湯」の大腸での働きを科学的に解明したと発表しました。

大建中湯は、消化管疾患の予防・治療や、大腸がん手術後の腸閉塞予防のほか、IBD患者さんの胃腸の働きを助ける目的でも使用されています。しかし、これまで効能を実感する医療従事者はいたものの、作用メカニズムはほとんど明らかになっていませんでした。

自然リンパ球(ILC)は、2008年に初めて発見された免疫を担当するリンパ球の一つで、病原体が体内に侵入すると真っ先に駆けつけて感染する前に排除する「自然免疫」を担当しています。ILCは役割により3つに分類され、中でも「3型自然リンパ球(ILC3)」は、腸内環境を至適な状態に保つために重要であることが知られています。しかし、ILCと漢方との関係性は不明でした。

大建中湯で腸のプロピオン酸が増え、その刺激で増えた細胞が大腸組織を修復・防御

そこで研究グループは今回、IBDのモデルマウス(以下、炎症誘導マウス)にヒトに処方される量と等量の大建中湯を経口投与し、大腸における腸内フローラの変化や、産生される代謝物と免疫応答を解析しました。

大腸に炎症が生じた炎症誘導マウスでは重篤な下痢症状と体重の大幅な減少が見られたのに対し、あらかじめ大建中湯をエサに添加し投与した炎症誘導マウス(以下、大建中湯投与マウス)では、下痢の症状が緩和されただけでなく、体重減少も抑制されたそうです。

次に、IBDと腸内フローラの影響が指摘されていたことから、それぞれのマウスの糞便の網羅的細菌叢解析を行いました。その結果、炎症誘導マウスでは「ディスバイオシス」という腸内フローラの多様性が低下した状態を呈していましたが、大建中湯投与マウスではディスバイオシスが改善され、腸内フローラが健康な細菌叢構成に近づいていたということです。

また、大建中湯投与マウスでは、炎症誘導マウスと比較して「ファーミキューテス門」というグループの細菌が著しく維持されており、さらに増加したファーミキューテス門は、「ラクトバシラス属」であることもわかりました。以上のことから、炎症状態では大建中湯がラクトバシラス属を増加させることで、腸内環境の改善に寄与していることがわかりました。

さらに研究を進めた結果、炎症誘導マウスに大建中湯を投与すると、ラクトバシラス属の細菌が増加し、代謝物の「プロピオン酸」の産生が上昇。プロピオン酸からの刺激で増加したリンパ組織形成に関わる「リンパ組織誘導性ILC3」という細胞が大腸上皮に作用して、大腸の組織を修復・防御に働くことが明らかになりました。

作用メカニズムが明らかになったことで、効果を最大限に生かした処方が可能に

研究グループは「大建中湯は胃腸の動きを助ける目的からさまざまな患者に処方されているが、今回の発見により作用メカニズムを理解した上で大建中湯の効果を最大限に生かし、臨床所見に応じた適切な処方が可能になるものと期待できる」と、述べています。

まだマウスの段階ではありますが、一部のIBD患者さんにも処方されている大建中湯の効果が明らかになったのは嬉しいですね!今後、ヒトでの研究が進むことに期待したいと思います。

(IBDプラス編集部)

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