乳児期の親との唾液接触で、学齢期のアレルギー発症リスク低下の可能性
親の口腔内の微生物が、子どもの腸内細菌叢を変化させる?
和歌山県立医科大学の研究グループは、日本人の学齢期の子とその親を対象に大規模な疫学調査を実施し、「乳児期の唾液接触と学齢期のアレルギー発症リスク低下との関連性」をアジアで初めて明らかにしたと発表しました。
近年、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、食物アレルギー、喘息などのアレルギー性疾患が先進国を中心に世界的に増加しています。その原因としては、清潔な環境下で感染症の発生率が低下したことにより、アレルギー性疾患の発生率が増加したとする衛生仮説が提唱されています。その後、常在菌や共生菌(腸内細菌叢)と免疫の発達との関連性についての研究も進められています。
現在までのところ、アレルゲン耐性の発達は、腸内細菌叢の多様性、乳幼児期の微生物による免疫刺激、出生時の母親からの微生物獲得など、いくつかの要因に依存すると考えられています。実際に、乳幼児期の微生物刺激が不十分だと皮膚などのバリア組織が過敏になり、アレルギー性疾患になりやすくなる可能性があります。
一方、口腔内の微生物が腸に移動して腸内細菌叢を変化させ、免疫防御を変化させることが示唆されています。実際に、「親の唾液で洗浄したおしゃぶりの使用で生後18か月の湿疹や喘息発症リスクと生後36か月の湿疹発症リスクが低下した」などの報告があります。
研究グループの研究でも「乳児期に噛み与えを行うことで、学童期のアレルギー発症リスク、特に湿疹の発症リスクが低下する可能性」が示されており、養育者から乳児への口腔内微生物の移行による免疫刺激が関与していると推測されています。しかし、学齢期におけるアレルギー発症とその関連性を調べた研究はほとんどありませんでした。
日本の小中学生とその親を対象に、91の質問を用いた疫学調査を実施
そこで研究グループは今回、「乳児期(生後12か月未満)の唾液接触が、日本人の子どものアレルギー発症リスクを低下させる」という仮説を立て、日本の小中学生とその親を対象に、国際小児喘息・アレルギー研究の質問を含む91の自記式質問を用いた疫学調査を実施しました。
地域的な偏りを減らすため、調査は石川県と栃木県の2県で実施。小学校1~6年生と、中学校1~3年生に無記名の自記式質問紙を配布し、自宅で保護者と一緒に記入したものを回収しました。対象となったのは、2016年は石川県の小学校3校と中学校3校の児童1,718人とその保護者、2017年は栃木県の小学校3校と中学校2校の児童1,852人とその保護者です。
質問の回答から、小中学生のアトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、喘息の発症と、乳児期(生後12か月未満)の食器の共有・親の唾液によるおしゃぶりの洗浄を介した唾液接触との独立した関連性を評価しました。
食器やおしゃぶりを介した唾液接触でアトピー性皮膚炎やアレルギー性鼻炎のリスク低下
その結果、乳児期の食器共有による唾液接触は、学齢期の湿疹発症リスクの低下との関連が見られました。これは、母親のアレルギー歴、妊娠中の喫煙、親の口腔感染症の知識で調整しても同様の結果だったということです。
また、乳児期の親の唾液によるおしゃぶりの洗浄を介した唾液の接触は、学齢期のアトピー性皮膚炎とアレルギー性鼻炎の発症リスクの低下と有意に関連していました。親の唾液によるおしゃぶりの洗浄と学齢期の喘息については、はっきりとした差は見られなかったということですが、発症リスク低下の可能性が示唆されたとしています。
アレルギー発症リスク低減のメカニズムを解明し、小児領域での応用目指す
乳児期の親から子への唾液接触の行為は、口腔衛生学的な見地などから減少していますが、今回の疫学調査により、乳児期の唾液接触としての食器の共用や、親の唾液により洗浄したおしゃぶりの使用で学齢期のアトピー性皮膚炎とアレルギー性鼻炎の発症リスク低下の可能性があることがわかりました。
「アレルギー発症リスク低減のメカニズムを明らかにし、これらの知見を小児のアトピー性皮膚炎やアレルギー性鼻炎、喘息の発症予防に応用する方法について、さらなる研究が必要だと考える」と、研究グループは述べています。
(IBDプラス編集部)
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