IBDの合併が多い「原発性硬化性胆管炎」に対する新たな治療法開発

ニュース , 腸内細菌を学ぶ2023/7/5

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腸内細菌が胆管や血管を通じて肝臓に到達し、PSCの発症や進展に関与?

慶應義塾大学医学部内科学教室(消化器)の中本伸宏准教授、金井隆典教授らの研究グループは、肝移植以外に有効な治療法が少ない難治性自己免疫性疾患「原発性硬化性胆管炎(PSC)」患者さんの腸内細菌を解析し、病気を引き起こす仕組みを明らかにしたと発表しました。

PSCは、胆管に炎症が起き、数年~数十年の経過で胆汁が滞り、肝硬変へ進展することが多い原因不明の自己免疫性疾患です。国内における推計患者数は約2,300人ですが今後増加が予想されており、国の難病特定疾患に認定されています。

病因として多くの遺伝的要因、環境的要因の関与が報告されていますが、病態の解明には至っておらず、肝移植以外に有効な治療法が存在しないのが現状です。炎症性腸疾患(IBD)を合併することが多いのが特徴で、腸管炎症に伴う腸管バリアの低下により、腸内細菌やその代謝産物が胆管や血管を通じて肝臓に到達し、病態の発症や進展に関わっていると考えられてきました。

そこで研究グループは今回、45人のPSC患者さん(IBD非合併11人/IBD合併34人)の便の腸内細菌を解析し、臨床像との関係性を調べました。

患者さんから高検出のクレブシエラ菌を投与、マウスの肝硬変が悪化

その結果、IBDの有無や大腸の炎症の部位に関わらず、PSC患者さんの便に「クレブシエラ菌」と「エンテロコッカス菌」が高率に検出されることを確認しました。さらに、患者さんから分離したクレブシエラ菌を肝臓に炎症を起こした肝臓線維化モデルマウスに投与して解析した結果、肝臓内のTH17細胞が増加して肝硬変が悪化することから、クレブシエラ菌がPSCの治療標的となる可能性が示されました。

細菌の増殖を抑制し殺菌する手段として抗菌薬が日常診療で広く用いられていますが、長期間の使用による多剤耐性菌の出現や院内感染が大きな問題となっています。研究グループはこの問題を打破するために、特定の病原細菌のみを選択的に殺菌可能で耐性菌の出現頻度が低いバクテリオファージの作製に着手しました。効果が期待できるファージを複数組み合わせることにより、クレブシエラ菌の増殖を長期間抑制し続けるファージカクテルの作製に成功しました。

クレブシエラ菌を標的とする「ファージ治療」の臨床応用に期待

最後に、クレブシエラ菌を投与した肝線維化モデルマウスにこのファージカクテルを投与し、肝硬変の改善効果の有無を検討しました。その結果、肝臓内TH17細胞の数が減少して胆管の炎症マーカーである血清ALP値が低下。また、肝硬変の程度も50%程度に改善し、クレブシエラ菌を選択的に排除するファージ療法がPSCに対して有効である可能性が示されました。

現在世界中でPSCに対するさまざまな新薬の臨床試験が行われていますが、いまだ長期的な改善効果を示す治療法は報告されていません。今回の研究で、クレブシエラ菌がこの病気の病態に関係する診断のバイオマーカー、さらには治療標的となることが初めて示され、クレブシエラ菌を選択的に排除するファージカクテルの投与によりマウスの肝硬変の程度が改善することも示されました。

研究グループは「今後、国内外の多くの患者さんの解析を行うとともに、複数のクレブシエラ菌を網羅的に排除する新たなファージカクテルを用いた治療効果や安全性の検証により、本成果が臨床応用につながることが期待されます」と、述べています。

(IBDプラス編集部)

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