小児IBDの新たな発症原因解明、尿中プロスタグランジン代謝産物測定がカギ?

ニュース2023/8/29

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若年発症の姉妹IBD患者さんを対象に、発症の原因を調査

順天堂大学、国立成育医療研究センター、群馬大学の研究グループは、小児炎症性腸疾患(IBD)の新たな発症原因を解明したと発表しました。

IBDの病因は遺伝的背景に加え、食生活や腸内細菌叢の変化などの環境要因が複雑に相互作用して発症に至ると考えられています。一方、小児期に発症するIBDは遺伝学的要因が強いとされ、その中には一つの遺伝子の機能が阻害されて引き起こされる「monogenic IBD」が含まれています。このようなIBDでは薬剤による標準治療が効きにくいことが多いため、原因の特定が求められていました。

Monogenic IBDの原因遺伝子の一つ「SLCO2A1」は、炎症メディエーター(生理活性物質)であるプロスタグランジンE2の細胞内取り込みを担うトランスポーター(物質の輸送を仲介するタンパク質)で、その働きが阻害されると慢性炎症が引き起こされます。SLCO2A1の遺伝子異常が、両親から受け継いだ遺伝子のどちらにも存在すると、浅い潰瘍が小腸に多発する「非特異性多発性小腸潰瘍症」と呼ばれるmonogenic IBDを発症します。

近年、IBDの原因を特定するための遺伝学的検査が保険適応となりましたが、この検査では原因が特定できない小児IBD患者さんも一定数見つかってきており、治療を考える上での大きな課題となっています。そこで研究グループは今回、若年で発症した姉妹のIBD患者さんを対象として研究を行いました。

SLCO2A1が原因のIBD「非特異性多発性小腸潰瘍症」の条件とは合致せず

妹は2歳の時に血便と下痢を発症し、内視鏡検査で大腸に散在するびらん(皮膚や粘膜の表皮が欠けたただれ)と、小腸に多発する潰瘍が見られました。姉は9歳の時に周期的な腹痛と発熱を発症。内視鏡検査で調べたところ、大腸は正常粘膜でしたが、小腸に多発する潰瘍が確認されました。

遺伝学的要因の関与が疑われ、全エクソーム解析(遺伝子解析の一つ)や代謝産物測定などの機能解析を行った結果、いずれの症例にも「SLCO2A1遺伝子」の片側アレル(対立遺伝子)にスプライシングサイトバリアントと呼ばれる変化を共通して検出しました。

これまでSLCO2A1が原因となるIBDとしては非特異性多発性小腸潰瘍症のみが知られていますが、この病気は両親から受け継いだ両側のアレルいずれにも病気の原因となる遺伝子の変化があるため、この姉妹の例には適合しませんでした。

姉妹の炎症病変ではSLCO2A1発現低下、尿中のプロスタグランジン代謝産物「高値」

腸管の組織細胞のDNAを解析したところ、姉妹の炎症を起こしている病変においてのみ、このSLCO2A1の遺伝子発現を制御するDNAの領域が高度にメチル化と呼ばれる化学変化が起こっていることが示されました。さらに調べたところ、姉妹の炎症病変では、SLCO2A1の発現が著しく低下していることがわかりました。

次に、代謝への影響を調べるために、尿中のプロスタグランジン代謝産物を測定したところ、姉妹いずれも、非特異性多発性小腸潰瘍症の患者さんと同等に高値でした。さらに、症状が重症な妹では、姉よりも高濃度のプロスタグランジン代謝産物が検出されたということです。

炎症を仲介するプロスタグランジンが腸管粘膜に慢性炎症を引き起こした可能性

これらの結果から、この姉妹の腸管細胞がDNAメチル化によりSLCO2A1遺伝子発現が抑制され、炎症を仲介するプロスタグランジンの取り込みが制御されて、高濃度のプロスタグランジンが腸管粘膜に慢性炎症を引き起こした可能性が示されました。

また、この結果から、腸内細菌叢の変化・食生活・運動などの環境要因がSLCO2A1の遺伝子発現に影響し、腸管粘膜の炎症を引き起こす可能性も示されました。

小児症例では尿中の代謝産物を測定することが重要

今回の研究により、遺伝学的検査のみでは原因が特定されなかった症例がIBD発症に至った原因の可能性が示されました。SLCO2A1のDNAメチル化がどのようにして引き起こされたのかは、まだ明らかになっていませんが、候補となる要因の一つとして腸内細菌叢の関与が考えられます。腸内細菌叢が乱れることで一過性の炎症が起こり、特定の遺伝子のDNAメチル化が亢進する可能性が考えられるとしています。

「今回の結果から、保険適応となっている遺伝学的検査で原因が特定できなかった小児症例で尿中の代謝産物を測定する重要性が示された。原因が特定されることにより、臨床経過が重症化した時にも最適な薬剤を選択し治療を行えるものと考えられる」と、研究グループは述べています。

(IBDプラス編集部)

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