来たるIBD新時代!渡辺守先生が語る「いまどきの治療の常識」【JSIBD市民公開講座】
ニュース | 2019/3/4
IBD(炎症性腸疾患;潰瘍性大腸炎、クローン病)は難病に指定されています。一度発症したら、このまま悪い状態が一生続くのでは――とご心配の方も多いはず。しかし、医師になって40年間、IBDの臨床と研究に捧げてきた渡辺 守先生(東京医科歯科大学消化器内科教授、日本炎症性腸疾患学会理事長)は、それを否定したうえで、「IBDは、喘息や生活習慣病(高血圧など)と同じような病気」と語っています。それは一体どういうことなのでしょうか?今回は、平成30年度日本炎症性腸疾患学会の市民公開講座『潰瘍性大腸炎・クローン病を「治す」時代へ!』の模様をお伝えします。
IBDが「治る」ってどういうこと?
日本炎症性腸疾患学会理事長 渡辺 守 先生
実は渡辺先生ご自身が喘息を患っており、5歳のときから始まった喘息発作に30年間も悩まされていたそうです。医学生から研修医の間は、13回も入院するほどの重症だったそう。そんな発作が起こらなくなったのは、30歳半ばを過ぎてからでした。その理由として、渡辺先生は「喘息の予防薬を毎日きちんと使うようになった」(喘息治療は「発作を止める」治療から「発作を起こさない」予防治療へと考え方が変わりました)ことを挙げています。この経験から、渡辺先生は「予防薬で発作が起きないというのは、病気が治ったのと同じ」と、考えるようになったそうです。
これはIBDにも当てはまります。現在、適切な治療を続ければ、IBD患者さんの7~9割の方が寛解状態になると考えられています。寛解状態、つまり、普通の人に限りなく近い生活・食事ができるということです。
「症状を治す」から「病気を治す」新時代のIBD治療
IBDは「慢性の病気で原因不明、根本的な治療もない難病」と言われていますが、実は、喘息や高血圧などのよくある生活習慣病も「慢性の病気で原因不明、根本的な治療もない」病気が多く含まれます。このような病気も、IBDと同様に、薬を使って正常な状態を保つ治療が行われています。
IBDを引き起こす要因とその仕組みについては、これまでの研究でかなりわかってきています。渡辺先生によると、「原因不明というよりも、原因がまだ1つに絞れていない」というような状況だそうです。
IBDの症状につながるメカニズムとして考えられているのが、身体を細菌やウイルスから守るための「免疫」が暴走してしまうために起こる「腸の炎症」です。つまり、腸に炎症が起きないようにすれば、腹痛や下痢、発熱などの症状も落ち着くということです。2000年頃までは症状の強さに合わせて「症状を抑える」治療が行われていましたが、現在では腸の炎症を抑え、粘膜が正常な状態を維持する「病気を治す」治療に変わりつつあります。
ですから、「IBDだからよくならない」「他の人と同じ生活はできない」などと思う必要はありません。治療によって腸の炎症を抑え続けることができれば、IBDが「治った」のと同じような状態で、普通の人と変わりない生活が期待できます。
まずは「いかに悪くしないか」を目標に、今の治療を続けて
そして、腸の炎症を抑えるための治療薬も日々進歩しています。IBDは、最近の研究成果がすぐに治療法に結び付いてきた数少ない病気のひとつです。ここ数年で何剤もの新薬が使えるようになっていますし、今も20種類以上の「免疫の暴走を抑える」薬が開発されているそうです。
また、免疫の調節だけではなく、日本人研究者が開発した「腸の上皮の傷を治すための再生医療」が開発され、患者さんを対象とした臨床試験が2019年内に開始される予定です。ほかにも、腸内細菌の健全化、血流や神経、ホルモンなどをターゲットとした新たな治療法も研究・開発されています。これらは免疫の調節だけでは腸の炎症を抑えられない人にとって、福音となるでしょう。
しかし、開発中の新薬などが使えるようになるまでには、年単位の時間がかかります。渡辺先生によると、実際に強い薬が本当に必要な患者さんは潰瘍性大腸炎で15%、クローン病で30~40%程度とのこと。新薬に期待する気持ちはわかりますが、いま使える薬による基本治療を適切に行っていくことが、最も重要と言えるでしょう。
渡辺先生は最後に以下のように述べ、講演を締めくくりました。
「新薬が目白押しの今だからこそ、いま使うことができる基本治療薬(5-ASA、ステロイド、免疫調節薬)を見直してほしいのです。これらを改良した製剤も出てきています。もし以前は効かなかった、副作用が出た、という薬でも、いったん頭を白紙に戻して、再度チャレンジするという選択肢もあります。大事なのは、新薬が出るまで我慢して待つことではありません。症状はもちろん、腸の炎症がないか、あってもわずかという程度でキープできるよう、今の治療をきちんと続けていくことが大切です。悪くなってから強い薬を使うというのは時代遅れで、“いかにして悪くしないか”という時代に変わってきています」
(ライター:伝わるメディカル 田中留奈)
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