正しく知りたい!「IBD新薬」の有効性と安全性を専門医が徹底解説【JSIBD市民公開講座】

ニュース2019/3/5

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IBD(炎症性腸疾患;潰瘍性大腸炎、クローン病)の治療は、21世紀に入って大きく変わってきました。特に近年では、立て続けに新薬が発売され、今後もさまざまな種類の薬剤が登場する見通しとなっています。

平成30年度日本炎症性腸疾患学会の市民公開講座では、本谷 聡先生(札幌厚生病院IBDセンター長)が『潰瘍性大腸炎とクローン病の新たな治療:その特徴と副作用を学ぶ』と題し、ここ数年で登場したIBDの新薬について詳しく解説してくださいました。

潰瘍性大腸炎の新薬・ゼルヤンツってどんな薬?

札幌厚生病院IBDセンター長 本谷 聡 先生
札幌厚生病院IBDセンター長 本谷 聡 先生

2018年に潰瘍性大腸炎の新薬が2つ、保険適用となりました。ゼルヤンツ(一般名:トファシチニブ)とエンタイビオ(一般名:ベドリズマブ)です。いずれも暴走した免疫システムをピンポイントで抑え、腸に炎症を起こさせないようにする薬です。

ゼルヤンツは、簡単に言うと、リンパ球の情報を伝達する「JAK」(ヤヌスキナーゼ)の働きを鈍らせ、炎症を悪化させる物質「サイトカイン」を作らせないようにする薬です。これまでの薬とは作用する場所が違うので、従来の治療でうまく症状をコントロールできなかった人にもよく効く可能性があります。1日2回の服薬で済むメリットもあります。

本谷先生が経験した症例では、ゼルヤンツを飲んで血便などの自覚症状が良くなった方が、ひきつづき維持治療を継続することで寛解に至りその後、数年間症状が落ち着いたそうです。もちろん、基本用法の8週間後までに寛解導入した患者さんもいるそうです。

ゼルヤンツは、免疫を抑える効果が高い分、感染症には注意が必要です。本谷先生は「ゼルヤンツはよく効く薬ですが、特に帯状疱疹には気を付けなければなりません。皮膚にピリピリした痛みを感じたり、赤いブツブツが出てきたりした場合は、早めに医師に連絡してください」と注意を促しました。

潰瘍性大腸炎の新薬・エンタイビオってどんな薬?

もう1つの新薬であるエンタイビオは、腸にだけ発現する接着因子MAdCAM-1と、リンパ球のα4β7インテグリンの結合をブロックします。簡単に言うと、炎症の指示を出す血管内のリンパ球が腸に移動するのを阻害し炎症を防ぎます。このMAdCAM-1という物質は腸にしかないため、エンタイビオは腸にしか作用しません。腸以外の場所の免疫は抑制しないので、安全性の高い薬と考えられます。

本谷先生によると、エンタイビオは、ステロイドが効きにくい人や減量できない人、既存の免疫調節薬が効かない人、生物学的製剤が使えない人やその副作用が心配な人に適しているとのことです。なお、同剤は「効果が表れるまで時間がかかることがある」そうですので、一度使用を開始して症状がいくらかよくなったと感じた方は治療を継続することが大切です。

クローン病の新薬・ゼンタコート、ステラーラってどんな薬?

クローン病については、2016年にゼンタコート(一般名:ブデソニド腸溶剤)が、2017年にステラーラ(一般名:ウステキヌマブ)が登場しました。

ゼンタコートの有効成分であるブデソニドそのものは、昔から使われているステロイド薬ですが、pH5.5以上で溶けるカプセルに入れて、腸(回腸~上行結腸)にだけ届くように作られています。かつてのステロイド内服薬は、「全身作用」のため、感染症にかかりやすくなるなどの副作用がありましたが、ゼンタコートは「局所作用」のため、より安全性が高くなりました。

本谷先生は、「このようなステロイド薬や5-ASA製剤など従来の薬を使用しつつ、やはりクローン病の患者さんには適切なタイミングで抗TNF-α抗体(生物学的製剤)を使って欲しい」と述べました。特に小腸に複数の縦走潰瘍がある人、広範囲に深い縦走潰瘍がある人、直腸に縦走潰瘍がある人、肛門周りに重い症状が出ている人、狭窄や内外瘻がある人は、抗TNF-α抗体の使用を検討していただきたいとのことです。

ただし、抗TNF-α抗体による治療を始める前には、必ず結核の検査を受ける必要があります。また、効果が高い(=免疫を抑える力が強い)反面、日和見感染症(特にカリニ肺炎)、B型肝炎ウイルスの再活性化、抗二本鎖DNA抗体陽性、乾癬様皮疹も多いので、注意が必要です。

もし抗TNF-α抗体でも症状が残ってしまった場合や、副作用が解決できない場合、新たな選択肢としてステラーラがあります。本谷先生の経験でも、従来の治療薬では副作用が出て続けられなかったという患者さんが、ステラーラに切り替えて寛解導入・維持できたという例が、いくつかあったそうです。

長期寛解していても検査は受けるべき?

このように、IBDの治療選択肢はどんどん増えてきています。多くのIBD患者さんが適切な治療で寛解導入・維持でき、普通の人と変わらない生活を送れるようになるのは、とても喜ばしいことです。その一方でIBD患者さんは、腸の慢性的な炎症でDNAが傷つきやすいことから、小腸がんや大腸がんなど「IBD関連がん」になりやすいことも知られています。

本谷先生は「治療がうまくいっているからといって、検査をサボらないでほしい。潰瘍性大腸炎では、少なくとも2年に1回は内視鏡検査をしてほしい。発症から20年経過している場合は1年に1回の検査が望ましい。右側結腸炎型の場合はCT/MRIで胆管の検査もしてほしい。クローン病では、3年に1回は内視鏡検査をし、肛門の痛みや痔瘻が急に悪くなった場合は、すぐにCT/MRIを含めた精密検査をしてほしい」と、定期的な検査の必要性を訴えました。

若年発症の多いIBDですが、最近では高齢発症も増えつつあるそうです。健康な人でも、中高年以後はがんの早期発見に備え、定期的な検診が必要です。寛解して自覚症状がないという人も、定期的な検査をしっかり受けるようにしましょう。

(ライター:伝わるメディカル 田中留奈)

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