世界初、大腸各部位の「生きた細菌叢」の解析に成功
健康への影響を理解するには「生きた」腸内細菌の解析が重要
弘前大学と株式会社ヤクルト本社は、生きた細菌のみが検出可能なプロピジウムモノアジド(PMA)と次世代シークエンシング(数百万もの遺伝子配列を解読可能な技術)を組み合わせて、ヒトの大腸各部位における「生きた」菌叢構成の解析に成功したと発表しました。
腸内細菌はヒトと共生関係にあり、健康に深く関わっています。腸内細菌が多く棲息するヒトの大腸は盲腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S字結腸および直腸に大別され、生理機能や上皮細胞の構成は各部位で異なります。腸内細菌の生態も大腸の各部位で異なっている可能性がありますが、ヒトの腸内菌叢を調べるために試料として用いられている排泄便では、その違いを調べることができませんでした。一方、腸内細菌が産生する代謝物にはさまざまな生理作用が報告されており、ヒトの健康に影響を及ぼすことが示唆されています。
生きた細菌の解析で、上行結腸が「酪酸」の主要産生部位である可能性が浮上
そこで研究グループは今回、従来の測定法にPMAを用いた方法を加えて、健康な成人を対象に、大腸内視鏡で腸管各部位の内容物や粘液、便を採取して、そこに含まれる腸内菌叢を解析しました。
大腸各部位(上行結腸、下行結腸、直腸)の腸内菌叢を比較した結果、従来の測定法による生菌と死菌を合わせた総菌について、大腸の各部位で菌叢の構成に差は認められませんでしたが、PMAを用いた生菌の解析では、いくつかの細菌群の生菌構成比が、部位により異なることがわかりました。
例えば、ヒト大腸における最優勢菌群の一つ「ラクノスピラ科」の生菌構成比は、上行結腸、下行結腸、直腸、便の順に徐々に減少していたそうです。
ラクノスピラ科には、腸上皮細胞のエネルギー源となり、また抗炎症作用をもつことで注目されている「酪酸」を産生する細菌種が多く属していることから、上行結腸がヒトに有益な「酪酸の主要な産生部位」である可能性が示されました。
「生きた腸内細菌」がヒトの身体の状態にどのような影響を与えるかについては、多くのことがまだ解明されていません。「今後、腸内菌叢の生態とヒトの健康や病態との関係を明らかにするうえで、本手法を用いた生きた腸内菌叢の解析は有用であると考えられる」と、研究グループは述べています。
(IBDプラス編集部)
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