クローン病の悪化に、腸内細菌叢の乱れで増加する脂質「リゾホスファチジルセリン」が関与
脂質分子がクローン病に与える影響は?そこに腸内細菌は関係する?
大阪大学の研究グループは、腸内細菌叢の乱れにより増加するリゾリン脂質の一種「リゾホスファチジルセリン(LysoPS)」が病原性の「Th1細胞」を活性化することで、クローン病を悪化させることを明らかにしたと発表しました。
ヒトの細胞や腸内細菌の細胞膜は、多様な脂質で構成されています。ヒトと腸内細菌はともに脂質を分解・合成する機能を持っており、一部の病原性細菌は、脂質を分解する酵素を産生し細胞膜を壊すことでヒト細胞内に侵入することが知られています。
近年、炎症性腸疾患(IBD)では、腸内細菌叢の変化に加え、血漿や便で一部の脂質分子が増加することが判明しています。しかし、「脂質分子の組成変化に腸内細菌が関与するのか?」「クローン病で増加する脂質分子が寛解・増悪に関与するか?」などについては明らかにされていませんでした。
発見された脂質、T細胞、大腸菌の制御が悪化を防ぐ新規治療につながる可能性
そこで研究グループは今回、健常者と比べてクローン病患者さんの便で増加する15種類の脂質分子を特定。その中で、クローン病患者さんの腸管内では、リゾリン脂質の一種「リゾホスファチジルセリン」が増加することが明らかになりました。実際に、クローン病患者さんの便を移植したマウスでは、腸管内のリゾホスファチジルセリンの濃度が上昇したそうです。
さらに、リゾホスファチジルセリンを産生する酵素「ホスホリパーゼA」を作るための情報を有する遺伝子をもつ大腸菌(E. coli)が増加することも判明。加えて、リゾホスファチジルセリンはTh1細胞における解糖系を促進し、炎症性サイトカイン「IFN-γ」の産生および細胞増殖を亢進させることが明らかになりました。リゾホスファチジルセリンの受容体「P2Y10」の遺伝子を欠損させたマウスでは、リゾホスファチジルセリン依存的な大腸炎の重症化が起こらないことも確認したということです。
これらのことから、「LysoPS-P2Y10受容体シグナルの制御法」「E. coli除去法」「E. coli由来ホスホリパーゼAの失活法」の確立がクローン病の治療法開発につながることが期待されます。
クローン病患者さんの腸管内で増える脂質と大腸菌が突き止められたことは、大きな前進と言えそうですね。研究の進展に期待したいと思います。
(IBDプラス編集部)
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