母乳から産生される過酸化水素が乳児の腸内フローラの形成に関与していることが判明
哺乳中に形成され、生涯不変といわれる腸内細菌叢
東京農工大学は11月15日、マウスを用いた実験により、母乳中のアミノ酸代謝から産生される過酸化水素が乳子の腸内細菌叢(腸内フローラ)の形成に関与していることを明らかにしたと発表しました。
腸内細菌叢は生まれて間もなく形成が開始され、離乳などのイベントを経て、徐々に大人の菌叢へと近づきます。一般的に、哺乳期間を含む腸内細菌叢の形成過程に獲得した腸内細菌は、多少のバランスの変化は起こり得るものの生涯不変といわれています。さらに、老化とともに乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌が減少する以外、基本菌叢パターンを大きく変えることは難しいとされ、現段階では、哺乳中に形成される腸内細菌叢をいかにして正常な菌叢に整えるかが重要で、母乳の中にそのヒントがあると考えられています。
母乳中にLAO1が含まれるか否かで子の腸内細菌叢が変化
研究グループは、マウスの母乳中に多く含まれるアミノ酸代謝酵素(LAO1)遺伝子を欠損させたマウス(LAO1欠損マウス)を用いて、母乳にLAO1が含まれるか否かで子の腸内細菌叢が変化するかを調査。その結果、野生型の母マウスから母乳を摂取している子マウスの腸内細菌叢は、従来の報告通りほとんどが乳酸菌で占められ、菌の多様性は抑えられていることがわかりました。その一方で、LAO1欠損の母マウスの母乳を飲んでいる子マウスの腸内細菌叢にはさまざまな菌が存在し、すでに大人の菌叢に近い状態だったそうです。さらに、LAO1は乳子の消化管内でも機能を失わず、アミノ酸を分解して過酸化水素を産生すること、過酸化水素は乳酸菌以外の細菌に対して抗菌性を示すことも確認されました。
今回の研究により、過酸化水素をはじめとする活性酸素を有効利用することで、腸内細菌叢形成過程において菌の多様性を制御できる可能性が示唆されました。研究グループは今後、脳機能や代謝機能など広く検討を行っていくとしています。
今回の研究結果は、IBD(炎症性腸疾患)の発症や増悪の解明に直接紐づくものではありません。一方で、因果関係は不明ながら、IBD患者さんでは腸内細菌叢の状態が健康な人とは異なるとの報告もよせられています。今後、意外にも母乳の研究から、IBDの病態解明のヒントが見つかるかもしれません。
(IBDプラス編集部)
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