炎症性腸疾患との合併が多い原発性硬化性胆管炎に関与する腸内細菌を発見
炎症性腸疾患との合併が多いため腸内細菌の関与に注目
慶應義塾大学医学部内科学(消化器)の金井隆典教授らの研究グループは1月15日、炎症性腸疾患との合併が多いことで知られる原発性硬化性胆管炎(PSC)の病態に関与する腸内細菌を発見したと発表しました。
PSCは、国の指定難病(特定疾患)に認定されている原因不明の自己免疫疾患で、肝臓の内外に存在する胆管(胆汁の流れ道)に炎症が起こり、胆管の狭窄を起こす進行性の慢性炎症疾患です。今のところ、肝移植以外に有効な治療法は少ない病気です。PSCは、炎症性腸疾患(IBD)を合併することが多いため、以前から両疾患は、関連が示唆されていました。腸炎が起こると腸管バリアの機能が低下します。その結果、腸内細菌やその代謝産物が腸管から外に出て胆管や血管に侵入し、やがて肝臓に到達することにより、PSCが発症したり、病態が進行したりすると考えられていますが、その詳細はまだ解明されていません。
そこで研究グループは今回、腸内細菌が肝臓の炎症、つまり免疫応答に、どのような影響を与えるかを「ヒトフローラ化マウス」を用いて調べました。ヒトフローラ化マウスは、無菌マウスに人間の便を経口投与し、その人の腸内環境を再現したモデルマウスです。
病態に関連深い腸内細菌を発見も、潰瘍性大腸炎とは関連性低く
まず、PSC患者さんの便を用いて作成したヒトフローラ化マウスで、大腸や肝臓に存在する免疫細胞の種類を解析しました。その結果、肝臓で、TH17細胞と呼ばれるTリンパ球の一種が顕著に増加していました。この現象は、健常人やIBDの一種である潰瘍性大腸炎(UC)から作成したヒトフローラ化マウスでは見られなかったことから、PSCに特有の現象であるとわかりました。
腸内細菌を標的とした新たな治療薬や診断薬の開発に期待
研究グループはさらに、ヒトの腸管の細胞を三次元培養する技術(オルガノイド培養技術)や、マウスを用いた実験により、PSC患者さん由来のクレブシエラ菌が大腸の上皮に「アポトーシス」と呼ばれる細胞死を起こして穴を開け、腸管バリアを破壊し、腸管の外に出てリンパ節に移行し肝臓内の過剰な免疫応答を誘導することを見出しました。さらに、PSC患者さんのヒトフローラ化マウスに抗菌薬を投与してクレブシエラ菌を排除すると、肝臓でのTH17細胞による炎症が30%程度に抑えられたことから、抗菌薬によるPSC治療の可能性が示唆されました。
今回の成果は、腸内細菌が肝臓の炎症を起こす原因である可能性とそのメカニズムを示したもので、腸内細菌を標的とした新たなPSC治療薬や診断薬の開発につながると期待されます。腸管バリアの低下により、腸内細菌が腸から外に出ていくことがPSCの病態に重要ではあったものの、今回の研究結果は、これまで仮説として言われてきた「IBD/UCなどの腸炎による腸管バリアの低下」ではなく、「腸内細菌が腸管の細胞死を誘導しての腸管バリアの低下」を示したもので、新たなメカニズムの発見となりました。
(IBDプラス編集部)
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