明日に役立つ大人の“おなか健康学” 【第19回 日本神経消化器病学会市民公開講座】

ニュース , 腸内細菌を学ぶ2023/10/11

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日本神経消化器病学会は9月30日、IBDなどの疾患や便秘などでおなかの悩みを抱える人に向けて、市民公開講座「明日に役立つ大人の“おなか健康学” ~便秘、おなかの悩みと、腸内細菌の持つ力~」を開催。順天堂大学医学部 消化器内科 教授の永原章仁先生、IBDプラスの「腸内細菌を学ぶ」コーナーでお馴染み、同大消化器内科 准教授の石川大先生、同大大学院医学研究科細菌叢再生学講座 特任教授/慶応義塾大学先端生命科学研究所 特任教授の福田真嗣先生、東京工業大学生命理工学院生命理工学系 准教授の山田拓司先生が登壇されました。

100人いれば100通りの「腸内環境」がある!ヨーグルト菌は定着する?

In-Their-日本神経消化器病学会市民公開講座

日本神経消化器病学会は、さまざまなおなかの病気について研究している学会です。永原先生は開会のあいさつで「腸内細菌によっていろいろな病気が引き起こされ、脳にも症状が出ることが最近わかってきた。順天堂大学の細菌叢再生学講座では、石川先生や福田先生を中心に腸内フローラの研究を行っている。多くの人におなかの病気と腸内細菌について楽しく学んでいただけたらうれしい」と述べました。

最初に、福田先生が「腸内細菌の基礎知識」というテーマで講演されました。腸内細菌はヒトの腸に運ばれてきた未消化物を食べ、不要なものを吐き出しています。これが「代謝物質」と呼ばれるものです。この代謝物質は腸で一部吸収され、血液にのって全身をめぐります。そのため腸内細菌は全身に影響を与えると言われており、実際に多くの研究で炎症性腸疾患(IBD)やがんなどの病気、持久力や肌質などの生理機能に腸内細菌が関係していることが判明しているそうです。

そもそも、なぜ「腹が立つ」「腹黒い」など、脳で起きているはずのことが「腹」で例えられているのでしょうか。英語でも腸を意味する「gut」が含まれた「gut feeling(直感)」などの言葉があります。福田先生は「これらの言葉からわかるように、昔から腸は第二の脳、もう一つの臓器と考えられてきた。しかし、明らかにされていない部分が多いため研究を続けている」とし、研究の一例を紹介しました。

30~50代の日本人男女48人の腸内細菌叢データを調べたところ、腸内細菌叢の種類・バランスは全員異なっていました。個人の食生活・生活環境・服用している薬の影響などで変わるため、一卵性双生児でも異なるそうです。

また、健康な30~40代の男女7人の便を約2年間調べた結果、個人の腸内細菌叢は2年経ってもさほど変化していませんでしたが、個人差が非常に大きいことがわかったそうです。つまり、Aさんの腸内ではAさんの腸内細菌同士が生存競争を行っており、生き残ったいわゆるエリートの腸内細菌が住み着いているそうです。Bさんの腸内でも同じことが言えますが、住み着いている腸内細菌は全く異なるということです。福田先生はこれをスポーツに例え、「世界的なサッカー選手にフィギュアスケートをやらせても上手くできないのと同じ。それぞれの腸が異なるフィールドで、そこに合った細菌が住み着き働いている」と説明しました。

では、世間で良いと言われている細菌を取ることは私たちの身体にどのような影響があるのでしょうか?20代の健康な男女18人にプロバイオティクスの入ったヨーグルトを2か月間毎日食べてもらう研究では、食べ続けることでプロバイオティクスの数が徐々に増えて行きましたが、食べるのをやめて2週間後にはほとんど検出されなくなったということです。このことから、例え良いと言われる細菌でも、個人の腸内に定着している細菌に勝つことは難しく、定着しにくいと考えられます。福田先生は「どうしても定着させたいのであれば、毎日食べ続ける必要がある」と述べました。しかし、この研究では、ヨーグルトを食べ続けている期間中にプロバイオティクスが検出されなくなった人もいたことから、食べ続けたからといって必ず定着するとは言い切れないとしました。

「薬の効き目」にも腸内細菌叢が関係している?

さらに、話題はIBD界隈でも注目されている「糞便移植(Fecal Microbiota Transplantation:FMT)」に移りました。今年、石川先生らが行っている「抗菌薬併用腸内細菌叢移植療法(Antibiotic Fecal Microbiota Transplantation療法:A-FMT療法)」が先進医療として承認され、潰瘍性大腸炎患者さんを対象に順天堂大学病院が代表で、国内4つの病院で治療が行われています。

一方、がん治療における免疫チェックポイント阻害薬の効果を得るためにFMTを応用する研究も進んでおり、免疫チェックポイント阻害薬が効かなかった患者さんにFMT後に再度投与したところ10人のうち3人に、別のグループでは15人のうち6人に著効(効果が見られた)したという報告があるそうです。

このことから福田先生は、「腸内細菌叢を変化させることで、効かなかった薬が効くようになる可能性がある」と、述べました。別の研究では、飲んだ薬の成分が腸内細菌によって別の構造に変化しているという報告もあるそうです。構造変化によって薬効が強まるのか弱まるのか、あるいは副作用を引き起こすのかについてはまだわかっていないそうですが、薬の効き目の違いに腸内細菌が関連している可能性があるそうです。

最後に福田先生は「将来的には食事やサプリメントも自分の腸内環境に合ったものを取る層別化が広がっていくと予想される。私自身も、個人が自分の腸内環境を知り健康づくりに役立てていくことはとても大切だと考え、便検査が自動でできるスマートトイレを開発中だ。将来的には社会実装を目指したい」と、展望を述べました。

潰瘍性大腸炎のFMTが最も上手くいきやすいドナーは親子?きょうだい?配偶者?

次に、石川先生、福田先生、山田先生によるパネルディスカッションが行われ、事前に集めた質問に対する回答が行われました。その一部をご紹介します。

Q:睡眠不足は腸内環境に悪影響を及ぼすというのは本当ですか?

山田先生:本当です。例えば、抗生物質を飲んだりすると腸内細菌の群衆構造が大きく変わりますが、これ以外の群衆構造が変わる要因の一つとして睡眠が挙げられます。

福田先生:睡眠不足になると体内時計が乱れてしまいます。特に夜勤の方などは、体内時計が乱れていることがわかっています。また、そのような人たちの腸内細菌叢をマウスに移植するとマウスが「太る」という研究データもあります。

Q:特定の疾患と腸内細菌との関連について教えてください

山田先生:有名なところでは肥満と大腸がん、動脈硬化や心不全も研究されています。ただ、病気になったから腸内細菌が変わったのか、腸内細菌が原因で病気になったのかについては、わかっている病気とわかっていない病気があります。「腸内環境を変えれば改善する」と考えられている疾患としては、潰瘍性大腸炎が挙げられます。

大腸がんの場合は、がんの進行に伴って腸内細菌叢が変化し、さらに進行するという負のスパイラルになることがわかっています。ただ、腸内環境を変えれば大腸がんが良くなるのかは明らかになっていません。HIV(ヒト免疫不全ウイルス)も感染することで腸内細菌叢が変化することがわかっています。肥満に関しては、腸内環境を変えると改善するという報告があります。

石川先生:私は「腸内環境を大きく変えれば病気が治せるのではないか」と考えています。しかし、私たちが行っているA-FMT療法が、全ての病気に効くのかはわかりません。ただ、腸内細菌叢の改善は、新たな治療選択肢の一つになると考えます。米国ではすでにFMTが一般的に行われていて、FMTのドナー広告も見かけます。もちろん一般の方は買えませんが、登録された医療機関がドナーから便を購入し、便移植を行っています。ちなみにドナーに選ばれると月に2,000ドルくらいもらえるそうですよ。ただし、合格率は2.5%だそうですが(笑)。このように、FMTは世界中で広く行われるようになってきています。

Q:潰瘍性大腸炎のFMTで最も上手くいく(寛解状態が続く)ドナーは家族ですか?

石川先生:最も上手くいくのは「きょうだい」であることがわかっています。次に配偶者、あまり上手くいかないのは親子ですね。親から子(子から親)は、年齢差が大きいですよね。そのため食事も違いますし、代謝も変わってきます。腸内細菌叢は3歳くらいまでに大方決まるのですが、最初は赤ちゃんの時にお母さんからもらいます。これはあくまで仮説ですが、年齢差が3歳以内のきょうだいでFMTが上手くいきやすいのは、腸内細菌叢が非常に似ているということが影響しているのではないかと考えています。

最後に石川先生は「順天堂大学の消化器内科は多くの難病患者さんを救うために腸内細菌叢の研究およびFMTをこれからも行っていく」と述べ、講演を締めくくりました。

腸内細菌なんてよくわからないと思っていたけれど、記事を読んで「もっと知りたくなった」「身近な存在に思えてきた」という人も多いのでは?IBDプラスではこれからも腸内細菌に関する話題をわかりやすくお伝えしていきたいと思っておりますので、ご期待ください!

(IBDプラス編集部)

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