急増する「潰瘍性大腸炎」。患者数30万人の未来を見据えて変えるべきこと
ニュース | 2020/10/1 更新
厚労省のIBD患者実態調査では、患者数が20年間で10倍に増加
ヤンセンファーマ株式会社は9月16日、「潰瘍性大腸炎オンライン・プレスセミナー 患者さんが直面する実態と最新治療の解説」と題したオンラインセミナーを開催。東邦大学医療センター佐倉病院 IBDセンター センター長の鈴木康夫先生と、潰瘍性大腸炎の競輪選手・高橋雅之さんが登壇されました。
鈴木先生は、かつて欧米諸国に多い病気とされていた炎症性腸疾患(IBD)が、近年では全世界で増加傾向にあり、特に日本を含む東アジア諸国で潰瘍性大腸炎患者が増加していることを指摘。実際に、厚生労働省の研究班でIBD患者の実態調査を行ったところ、約20年で患者数が10倍に増加していたそうです(※1991~2014年度、医療受給者証・登録者証交付件数ベース)。2014年度の調査では、潰瘍性大腸炎は約22万人、クローン病は7万2,000人となっています。
原因は未だに不明ですが、同じIBDでも人種で共通する部分が少なく、昨今急増していることを考えると、生活様式や環境の変化、腸内細菌叢が大きく関わっていると考えられるとのことでした。
これからは、メンタルケアの専門家や就労支援事業者など、広い領域との連携したチーム医療が必要
鈴木先生によると潰瘍性大腸炎は現在、60%くらいが軽症、30%くらいが中等症、10%くらいが入院や手術になるそうです。「根治療法」がないため、普通の人とほぼ同じ生活ができる寛解を目指して「寛解導入療法」を行います。鈴木先生は、「寛解導入後に治療をやめてしまうと高い確率で再発するので、寛解維持療法を続けることが大切。よく、寛解維持で飲む薬は半年分くらい出して欲しいという患者さんがいるけれどそれは違う。再燃する前に、早期治療を開始するためにも、定期的に主治医に会って病状を話し、適切な治療を行うことが大切だ」と述べました。
また、慢性的な炎症が続くと「炎症性発がん」が起こりやすい状態となり、普通の人の8倍もがん化リスクが高まるそうです。寛解維持だけでなく、がん予防のためにも治療を継続することが大切なんですね。
最後に鈴木先生は、潰瘍性大腸炎の診療について「今後も潰瘍性大腸炎患者は増え続け、30万人に至ることも考えられる。それらの人たちに対応していくためにも、これからのチーム医療は栄養士や他科の医師に留まらず、メンタルケアの専門家や就労支援事業者など、さまざまな領域と連携していくことが必要だ。また、国の方針は“難病でも病状が落ち着いたら地域の病院に戻す”という方向性に変わりつつある。IBD専門医は、患者さんの病状が落ち着いたら、近隣のクリニックを紹介するという“逆紹介”を定着させていかなければならない」と、今後の展望を語りました。
突然「潰瘍性大腸炎」と診断され、訪れた選手生命の危機
次に、潰瘍性大腸炎の競輪選手・高橋雅之さんが自身の経験を語りました。2016年の秋ごろに腹痛と複数回の血便があり、最初は競輪選手によくある切れ痔だと思って気に留めていなかったという高橋さん。しかし、寝ていても激しい腹痛が起こるようになり、急激に痩せてきたため近医を受診したところ「潰瘍性大腸炎」と診断され、そこで初めてこの病気の存在を知ったそうです。
当初はすぐ治ると思い基本的な服薬治療を続けていたそうですが、40度の熱、血便を十数回繰り返して入院。その後も症状は治まらず、1週間点滴で過ごし、IBD専門医である鈴木先生を紹介してもらったそうです。鈴木先生の話では、通常であれば手術をしなければならないほどの状態で、薬で悪化している様子もみられたとのこと。しかし、手術をするとアスリート生命が絶たれる可能性もあったので、内科的治療のみで頑張ることにしたそうです。
ステロイドを短期的に使って症状を改善させることになり、その間数か月はトレーニングを全くせず、治療に専念したという高橋さん。15kgくらい痩せて筋肉が落ちたので、療養中は身体のことを勉強して、トレーニングできるようになったら、どこに筋肉をつけていくのが効率良いのか、ひたすら考えたそうです。
ここまでがんばれたのも、「医師との信頼関係」があったから
努力の甲斐あって、ようやく復帰の舞台に立った高橋さん。病気になってからの精神面の変化について、「運動できる喜び、復帰できる喜びを感じた。他の人が体験できないことを乗り越えて復帰できたので自信にもつながった」と、力強く語る姿がとても印象的でした。
今も月に1回は受診して、調子が悪いときには無理せず休むこと、ストレスをためない生活を心がけているそうです。また、「治療を続けられるのも恩人である鈴木先生との信頼関係があるから」と感じているそうで、患者と医師のコミュニケーションの重要性についても語りました。
復帰してからしばらく病気の公表を拒否していたという高橋さん。公表に至った理由について、「知り合いから、病気を公表することで勇気づけられる人がいるのではないかと言われ、そのような人が1人でもいるならと公表する決意をした。その結果、心配してくれた人もいるし、心無いことを言ってくる人もいた。でも今は、潰瘍性大腸炎である自分を受け入れてくれるだけで嬉しいし、日々励まされている」と、笑顔で語りました。
今回お二人のお話を伺って、IBD患者さんと主治医の先生が心を開いてとことん話し合い、二人三脚で治療を続けていくことで、未来は大きく変わるのだと感じました。そして、IBDという病気の啓蒙はまだまだ足りていない状況だとも感じました。鈴木先生は随所で「メディアのみなさんに協力いただきたい」とおっしゃっていましたが、今後も患者さんが働きやすい、生きやすい世の中に変えるために「伝える」お手伝いをしていきたいと思いました。
(IBDプラス編集部)
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