【JSIBD市民公開講座】クローン病に対する内科治療(横浜市立大学附属市民総合医療センター 炎症性腸疾患センター 国崎玲子先生)
ニュース | 2023/6/29 更新
クローン病は適切に治療しなければ進行してしまうため、早期治療が重要とされています。しかし、おしりや皮膚などおなか以外の場所に炎症が起こる可能性がある上、新しい薬が次から次へと登場するいま、「結局どうしたらいいの!?」とパニックになっている患者さんもいるのではないでしょうか。そんな人たちのために、横浜市立大学附属市民総合医療センター 炎症性腸疾患センターの国崎玲子先生が、わかりやすく解説してくださいました。
クローン病と上手に付き合うコツは?
国崎先生はまず、クローン病と上手に付き合っていくには、ここ数年で治療選択肢が増えたので、いろいろな治療を味方につけて、時と場合に応じて使い分けることが重要だと語りました。治療方法は、主に重症度に応じて決定されます。炎症の程度を知るための検査として「便中カルプロテクチン」や「血中LRG検査」なども行われていますが、炎症範囲や、狭窄・瘻孔などの有無も含めて正しく知るには、やはり内視鏡と造影検査が基本になるとのこと。最近ではCTエンテログラフィー、MRエンテログラフィー、腸管エコーなど、別の検査を組み合わせることもあるそうです。クローン病では、上部内視鏡(胃カメラ)、大腸内視鏡、小腸内視鏡、カプセル内視鏡など、さまざまな検査が行われますが、発症して10年以上経つと直腸肛門にがんができることがあるので、がんチェックのためにも1~2年に1回の内視鏡検査は重要だと強調しました。
新規治療薬が次々登場している今、治療選択肢を大事に取っておく時代は終わったとのこと。さらに、「新規治療薬の多くは有効性・安全性が非常に高く作られている。治療開始に遅すぎるということはないので、自身の腸の状態に合わせて、新規治療薬にチャレンジしてみるのも良い選択肢だ」と語りました。
正しく理解していますか?治療別メリット・デメリットを詳しく解説
クローン病の治療にはさまざまなものがありますが、前提として「禁煙」と「食事療法」は全ての患者さんに共通して安全で有効な治療法で、他のさまざまな薬物治療と組み合わせることも可能です。特にクローン病では、禁煙するだけで、再発率が半減するそうです。
次に、国崎先生はそれぞれの治療法について詳しく解説しました。軽症の患者さんは「5-ASA製剤」「ブデソニド」「栄養療法」を行います。中等症以上の患者さんでは「ステロイド」「チオプリン製剤」「血球成分除去療法」さらに「ベドリズマブ」「抗TNF抗体製剤」「ウステキヌマブ」「リサンキズマブ」などが使用されます。
ステロイドは怖がる患者さんが多いそうですが、「短期間に使う分には、確実な抗炎症・免疫抑制効果がある。また、IBD治療薬としての歴史が長く、もともと生体内で作られているホルモンなので、発がん性がないなどのメリットも知って欲しい。一般的に、副作用の多さが問題視されがちだが、若い人に出るのは不眠、食欲亢進、ムーンフェイス、にきびなど、恒常的に残るような副作用の出現はごく一部だ」としました。
栄養療法で使われるエレンタールは、タンパク質を含まないアミノ酸に分解された栄養剤で、アポロが宇宙に持って行った栄養剤を少し改良したもの。なぜクローン病の腸管病変に効果があるのかについては、まだはっきりわかっておらず、「タンパク質がないことで、腸に異常な免疫反応が起こらない」「アミノ酸に抗炎症効果がある」などの説があるそうです。クローン病の寛解導入・維持に使われ、特に、小児や小腸病変に有効とされています。ハーフED(1日3包)だけでも高い効果が期待できるので、栄養状態が悪い時期、腸の炎症が強い時期や、狭窄があるときには、頑張って続けて欲しいと述べました。
チオプリン製剤は、クローン病の寛解維持に使用されます。有効性が70%と非常に高い一方、効果が出てくるのが2か月後くらいと時間がかかるため、ステロイドなどと併用しながら開始するケースが多いそうです。また、二次無効が起こらないので、中止・再開が容易というメリットもあるそうです。デメリットとして副作用の多さが挙げられますが、「NUDT15 遺伝子多型検査」(保険適応)で、脱毛・骨髄抑制の副作用を事前に予測することができ、日本人の約8割は概ね問題なく使えるそうです。
血球成分除去療法は、有効性50%で、大きな副作用がないのがメリットですが、誰にでも使えるわけではなく「通常治療で効果不十分または副作用で使用不能な大腸病変」にのみ適応します。また、国崎先生はこれに似たような治療として、生物学的製剤のエンタイビオを挙げました。点滴ですが投与時間が30分と短く、「リンパ球が血管への接着するのをブロックするだけ」の治療であるため、全身の免疫は抑えられず、大きな副作用も少ないそうです。有効性も50~60%と高めなので、免疫抑制治療による副作用を不安に感じる患者さんや高齢者にも人気だとしました。
抗TNF抗体は、有効性が70~80%。生物学的製剤の中では歴史が長いため、妊娠・授乳に対するデータも多く、妊娠希望の患者さんにも推奨されます。また、特にインフリキシマブは、最も古い生物学的製剤ですが、今でもクローン病に対する最強の治療薬で、複雑痔瘻や高度な肛門病変にも有効だそうです。デメリットとしては、他の生物学的製剤よりやや副作用が多いこと、投与時反応(血液低下など)が起こりやすいことと、二次無効を挙げました。かつては「一度始めたら一生止められない」と言われていたそうですが、今は「安易な治療中止は避ける」となっており、徐々に使い方が見直されてきているそうです。
アダリムマブは、2週間に1度自宅での自己注射(皮下投与)なので、忙しい人でも続けやすいという特徴があります。昔は注射の痛みが強かったそうですが、今は改良されて、ほとんど痛みがないとのこと。国崎先生は、「二次無効や副作用が少ないため、40mg製剤で効果がなければ80mg製剤に迷いなく切り替えて良いと考える」と、述べました。
ウステキヌマブ(ステラーラ)は、抗TNF抗体とは違う機序の薬で、抗TNF抗体が無効な患者さんにも使え、二次無効も少ないそうです。効果は緩やかですが、継続していくうちに病状が安定していく例もある点が、他の薬剤と異なるとしました。また、抗TNF抗体に比べ、狭窄を起こしにくいという報告もあるそうです。全ての既存薬が無効だった高度難治の患者さんや抗TNF抗体が二次無効になった人にも効くことがあるのだとか。デメリットは、即効性がなく、肛門病変への有効性もインフリキシマブに比べるとやや弱いという点だということです。
リサンキズマブ(スキリージ)は、2022年に新たに承認された寛解導入・維持薬。3回点滴後は2か月ごとの皮下注射を行います。これまでの治療が効かなかった人にも期待できる治療薬で、インフリキシマブに次いで強力、また、ステラーラが無効だった人にも効く可能性があるということです。
特殊な病態や合併症に対する治療薬も新たに登場
さらに近年では、短腸症候群に対しては「GLP-2アナログ製剤(レベスティブ)」、複雑痔瘻に対しては「ヒト脂肪組織由来幹細胞(アロフィセル)」、合併症の貧血に対しては「静注鉄剤(フェインジェクト)」、低亜鉛血症に対しては「亜鉛製剤(ノベルジン)」など、ここ数年の間に、特殊な病態や合併症に対する治療薬が新たに次々と登場しました。
レベスティブは、短腸症候群の治療薬(皮下注射)。2年間で3割の在宅IVH(中心静脈栄養)を中止できたというデータがあるそうです。アロフィセルは複雑痔瘻に皮膚組織の幹細胞を注入して閉じるという再生医療等製品で、有効性は70~80%と言われています。しかし、現在はまだ治療を受けられる患者さんの条件と施行可能な施設が限られているそうです。
治療選択が増えたからこそ、定期検査と病状に合わせた治療の調整が重要
これら、どの治療を試しても効果が得られず、具合も全く良くならないという人は、「5-ASA製剤」「チオプリン製剤」「抗生剤」などのアレルギーの可能性がある。また、痛風の治療薬「コルヒチン」が有効なIBDの亜型「家族性地中海熱遺伝子類縁腸炎」の可能性があるので、血液検査でCRP(血清C反応性タンパク)が高い状態が続き、治療を行っても定期的に発熱や関節痛が出る場合は、主治医の先生に相談してみて欲しいとしました。
最後に国崎先生は「治療選択が増えた今の時代こそ、定期的に検査を受け、腸の状態に合った治療に調整していくことが重要。また、新しい治療薬だけでなく、栄養療法や内視鏡的拡張術など、今まであった医療も調子の悪い時期に取り入れてみるなど、併用という工夫も重要。主治医の先生と相談しながら、さまざまな工夫を取り入れて、さらにクローン病と上手に付き合っていって欲しい」と、締めくくりました。
(IBDプラス編集部)
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