「難病」でもふつうの生活を。なんでも相談し、適切な治療を継続することが大切~日比紀文先生に聞く

医師インタビュー2021/7/12 更新

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北里大学北里研究所病院 炎症性腸疾患先進治療センター長 日比紀文先生
北里大学北里研究所病院 炎症性腸疾患先進治療センター長 日比紀文先生(撮影:QLife編集部)

潰瘍性大腸炎やクローン病と診断されたとき、耳慣れない病名にショックを受けたり、不安に駆られたりした経験をお持ちの方も多いかもしれません。医療の進歩にともない、潰瘍性大腸炎・クローン病などの炎症性腸疾患(IBD)の治療も考え方も変わってきました。そこで、長年IBD診療に携わってきた北里大学北里研究所病院 炎症性腸疾患先進治療センター長の日比紀文先生に、いまのIBD診療と、患者としてどんなふうに治療に取り組めばよいか、お話を伺いました。

かつては医師が中心だったIBD診療。いまは多職種が連携するチーム医療の時代

現在、炎症性腸疾患の患者数は、潰瘍性大腸炎、クローン病を併せて20万人を超えています。IBDを専門として長く診療を続けてきた先生からご覧になって、IBDを取り巻く環境に変化はありますか?

日比 かつては限られた専門医を中心に、まずは正しく診断をすることにエネルギーが注がれ、その後は、治療薬の選択肢も少ないなかで炎症を抑え込む寛解導入療法を入院で行い、なんとか炎症を抑え込むことが精いっぱいという時代でした。そこでは圧倒的に医師が中心の医療だったと思います。
しかし、最近では専門医数、患者数、治療薬のいずれもが増え、よほど重症な患者さんでない限りは、炎症を鎮静化させる寛解導入療法、その後の炎症が起きていない状態を維持する寛解維持療法ともに、外来通院で行うことが当たり前となっています。
もっとも、現時点でIBDは原因が完全には解明されておらず完全治癒は望めません。患者さんは若い時に発症し、その後、さまざまな人生のイベントを迎えながら、治療に取り組んでいかねばなりません。その観点からは、治療のあらゆる局面で、医師だけでなく、看護師、薬剤師、栄養士、社会福祉士など多職種がチーム医療として患者さんを支えていくことが当然であるとの考えが浸透してきています。

そうしたなかで、患者さんにはどのような心構えが求められるのでしょう。

日比 IBDというと、とかく「難病」というレッテルを貼られがちです。IBDと診断されれば、患者さんとご家族の双方にとって、人生で初めてのことですから、戸惑うことでしょう。しかし、治療選択肢も増えた現在では、適切な治療を受けていれば、患者さんの多くは、ほぼ健康な人と変わらない生活を送ることができます。私はもはや、IBDは「難病」とはいえないとすら思うこともあります。もちろん、寛解維持のために治療薬を飲み続けなければならない方も多く、この点では健康な人とは異なりますが、患者さんも単純に「難病」とは思わず、適切な治療を継続していけばふつうの生活を送ることができる病気だと、改めて認識していただきたいと思うのです。

不安、悩み、疑問もいろいろ。気になることはなんでも専門家にきいて

北里大学北里研究所病院 炎症性腸疾患先進治療センター長 日比紀文先生
(撮影:QLife編集部)

日比 患者さんの多くが若い時期に発症し、その後の人生で受験、就職、結婚、出産などさまざまな経験をしていきます。この時期は、健康な人でもいろいろと悩みの多い日々を送っているものです。IBDの患者さんは、若さゆえの悩みに加えて、IBD治療にともなう悩みが重なることになります。その時々で不安を感じること、悩むことは、患者さんによって異なります。
その不安や悩みのなかには、医師には話しにくいこともあるでしょう。我々も、患者さんが医師にすべてを話せるわけではないことも承知しています。ですから、何か悩みを抱えていて、それを医師に話しにくいと感じた場合には、看護師や薬剤師、栄養士など、ほかの職種の医療スタッフに相談することも一向にかまいません。
むしろ、悩みごとを自分の中で抱え込むのではなく、我々チームのメンバーの誰かに話していただければ、専門家としてその悩みに対する回答を提供できると思っています。その意味でも、現在のようなチーム医療が求められているのは自然の流れともいえるでしょう。

長期にわたる治療では、薬を毎日きちんと飲めない、あるいは決まった外来通院日に医療機関に来ることができないということもあると思います。

日比 治療方針を守れるか否かは、患者さんの性格による部分もあるとは思いますが、必ずしもそればかりではありません。家庭や学校、職場など患者さんを取り巻く環境は、極めて多様です。治療方針が守れない背景には、そうした環境が影響していることも少なくありません。時には、ご家族や学校、職場の方々のご協力が必要になる場合もあります。
我々もこれまでの診療経験で、そのような、患者さんをとりまく多様な環境があることは、十分承知しています。ですからその意味でも、悩みごとがあったら、我々スタッフに相談してみることは、決して損にはならないと思います。

かつてとは違い、現在では、患者さん自身がインターネットを駆使して情報を収集できるようになっています。この点で注意すべきことはありますか?

日比 まず、IBDは一人ひとりの患者さんで病気の状態(病態)が違いますので、それぞれに合った適切な治療が必要です。例えば、重症度によって治療方法が異なります。インターネット、あるいは患者さん同士の情報交換では、個々の患者さんの重症度を考慮した情報が手に入るとは限りません。なかには、まだ医学的に十分な検証が行われていないような情報や、そこで紹介されている内容を実践すれば治癒できるかのような、誤解を生む情報が掲載されていることもあります。
患者さんの多くは、少しでもいまある症状をよくしたいという思いがあります。そうすると、自分が信じたい情報だけを信じ、不都合な情報からは目を背けてしまいがちです。自分がインターネットなどから何らかの情報の行きつき、それを読むことで不安や疑問を感じた場合は、鵜吞みにせず、まずは私たちIBD専門の医療スタッフに、遠慮せずに尋ねてほしいと思います。繰り返しになりますが、医師、看護師、薬剤師、栄養士の誰にでもいいのです。「こんなことを聞いたら…」などと心配せず、より適切な治療を実践するために、積極的に我々専門家に質問してほしいと思います。

(インタビュー:村上和巳)

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