【JSIBD市民公開講座】炎症性腸疾患患者さんの妊娠・出産について(横浜市立大学附属市民総合医療センター 炎症性腸疾患センター 国崎玲子先生)

ニュース2024/4/26

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IBDプラスにも多く寄せられる妊娠・出産に関するお悩みやご質問。「薬を飲んでいる状態で妊娠したら危ないのでは?」「妊娠を希望していることを医師に伝えるべき?」など、いま、あるいは将来的に妊娠を希望する方たちに向けて、横浜市立大学附属市民総合医療センター 炎症性腸疾患センターの国崎玲子先生が、わかりやすく解説してくださいました。

安全な妊娠・出産を望むなら、「寛解」を目指すことが大切

国崎先生はIBD患者さんにまず知っておいて欲しいこととして、「病気や薬の投与がなく健康であっても100%安心な妊娠は存在しない。病気が無くても不妊は10%、流産は15%の確率で起こる」と説明し、もしこのようなことが起こったとしても、自身を責めたりしないで欲しいと語りました。

そのうえで、妊娠を望む場合は、適切な治療を継続して「寛解」を目指すことが大切だと述べました。病気が落ち着いている寛解期であれば、健康な人たちと同じリスクで妊娠出産が可能で、不妊の増加(術後の影響除く)、母親のIBDの悪化、早産・流産・妊娠異常など児への悪影響も増加しないそうです。

一方、活動期の妊娠は母子ともにリスク・不妊率が上昇するそうです。また、約3割の母親のIBDが悪化し、強い薬の投与が必要になったり、緊急手術になることもあると指摘しました。これはIBDに限ったことではなく、身体に強い炎症があると子宮がストレスで収縮しやすくなり、妊娠早期の流産や妊娠後期の早産、低出生体重児の増加、産後のIBD悪化などにつながるそうです。

「だからといって妊娠を諦めたり恐れたりするのではなく、十分な寛解期間の後に、計画的に妊娠するようにして欲しい」と強調。十分な寛解期間については、一般的にステロイドをやめてから3か月経っても寛解が継続している状態が目安と説明しました。

薬の服用で起こり得るリスクは?妊娠後に再燃しやすい時期はいつ?

さらに国崎先生は、妊娠・出産に関するさまざまな疑問にも回答してくださいました。以下にまとめてご紹介します。

若い頃から薬を飲んでいると、将来、不妊や奇形が増えるのではないか。X線検査も同じ理由で危険なのでは?

薬の添付文書に催奇形性の危険性があると書かれている場合でも、妊娠前に使用した一般的なIBD治療薬が原因で将来、不妊や奇形を生じた例はこれまでに無い。

複数回のX線検査被爆に関しても、放射線学会では、生殖腺への事前の被爆によって奇形は増加しないと考えられている。つまり、妊娠前に受けたX線検査で将来、不妊や奇形が生じた例はこれまでに無い。また、妊娠に気付かずX線検査を受けてしまった場合でも、妊娠中の被爆で児に奇形や中枢神経障害が起こるのは大体50mGy以上と考えられている。腹部X線が1回1.4mGy、腹部CTが8mGy、骨盤CTが25mGyであることからも、過剰に心配する必要はないと考える。

Q. IBDの薬を服用中に妊娠しても大丈夫?

ハッキリ言えるのは「腸に炎症があることが妊娠に有害」ということ。安全な分娩のためにも、活動期の人は適切な治療を続けていくことが大切。ぜひ、「治療薬の有益性投与」という言葉を知って欲しい。妊娠中の服薬はどうしても児に対する影響ばかりが目に行ってしまうが、適切なIBD治療で病状が落ち着くことは、母子に対する有益性がある。妊娠したから薬は飲まないではなく、治療の必要性を主治医の先生と相談しながらバランスよく考えていくべき。

Q. 妊娠に望ましくないとされる薬を使用している場合はどうしたらいい?

妊娠前に主治医の先生と相談し、できれば中止を試みて再燃しないか確認する。妊娠してからではなく、妊娠前に調整をしておくことが大切。あわせて、妊娠後にIBDが悪化した場合、どの治療を選択するかについても相談しておくこと。

Q. 出産する病院はどこでもいいの?

活動期に妊娠した場合は、産科と消化器科がある病院を選ぶのが望ましい。寛解状態であれば、里帰り出産も可能だと考える。

Q. 妊婦はかぜ薬さえ飲んではいけないというのだから、IBDの薬なんてもってのほかなのでは?

妊婦が飲んではいけないかぜ薬とは「非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)」のことを指している。かぜ薬ですら飲んではいけないのではなく、むしろ「かぜ薬だからNG」というのが正しい。

Q. 妊娠後、特に再燃しやすい時期というのはある?

最も再燃しやすいのは妊娠12週前後分娩直後と言われている。妊娠初期や授乳が始まる時期など薬を飲むのが不安な時期にあたるが、この時期こそIBDの再燃予防のために治療していくことが大切。

Q. 産後の授乳はどうしたらいい?

母乳は児の成長・発達を向上させ、死亡率を低下させる。また、児の特定の疾患発症を低下させる可能性も指摘されており、そこにIBDも含まれるため、主治医に相談して特に問題ないようであれば授乳をして良い。

IBD治療薬別「胎児への影響」は?

さらに、IBD治療薬別に「胎児への影響」を解説してくださいました。

メサラジン製剤:安全とされているが、サラゾピリンは過去に新生児黄疸が増加するというデータがあるため日本では妊娠中の投与を推奨していない(欧米では安全に投与可能とされている)。

ステロイド剤:以前は口蓋裂が増加するという報告があったが、最近の研究では奇形の増加は否定されている。一方、妊娠中のステロイド使用で母の妊娠糖尿病・高血圧・血栓症のリスクが増加、児の出産後の感染症が増加したという報告があるため、妊娠中はできるだけ使用しない方が良いとされている。

チオプリン製剤:動物への大量投与で催奇形性と遺伝毒性が確認されている。そのため、可能であれば妊娠2か月以上前に投与中止を検討するのが良い。一方、欧米では奇形が増えたというデータはなく、妊娠中も継続するよう記載されている。日本産婦人科学会のガイドラインにも「必要な人は妊娠中も継続可能」と記載されている。そのため、妊娠前に主治医に相談するのが良い。

抗TNFα抗体製剤:タンパク質なので分子量が大きく妊娠前期は胎盤を通過しないため、ほぼ安全と考えられる。ただし、妊娠後期は胎盤を通過するため、妊娠中の投与スケジュールを主治医と相談すべき。20~40週で赤ちゃんの血中濃度が上がるので、特に妊娠中の最終投与は慎重に検討すべき。ただし、欧米では多くの場合は赤ちゃんに到達しても問題ないと報告されている。エンタイビオ、ステラーラ、スキリージ、オンボーも基本的には抗TNF抗体製剤とほぼ同様と考えられる。しかし、新薬のため安全性のデータは不十分なので、主治医と相談を。

JAK阻害剤:妊娠中は避けるよう添付文書に記載されている。

カログラ:妊娠中は避けるよう添付文書に記載されている。

男性IBD患者さんについては、IBDというだけでパートナーの不妊や妊娠異常は増加しない。また、精子は卵子に比べて薬剤による影響を受けにくいが、以下の2剤については注意を促しました。

サラゾピリン:一時的に精子数が減少し、妊娠しづらくなるが、中止することで2~3か月で元に戻るため永久不妊にはならない。

チオプリン製剤:海外では男性患者の奇形の増加はないとされているが、日本人のデータは少ないため、妻の妊娠前に主治医への相談が必要。

国崎先生は最後にまとめとして「妊娠を希望する人は主治医の先生に妊娠を希望していることを伝え、自分が「寛解」しているのかを確認し、寛解していない場合は安全な妊娠に向けて治療を調整していくことが必要。この際に使用する薬の制限は特になく、寛解した時点で妊娠に安全な薬に切り替えれば良い。妊娠中も使える薬が大幅に増えたとはいえ、活動期の妊娠はさまざまなリスクがある。繰り返しになるが、できる限り寛解した状態で、計画的な妊娠を心掛けて欲しい」と述べ、講演を締めくくりました。

(IBDプラス編集部)

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