クローン病小腸狭窄に対する内視鏡的バルーン拡張術の有効性【特集:JSIBD2018】
ニュース | 2018/12/21
内視鏡的バルーン拡張術に関する臨床試験の結果を福岡大学筑紫病院の平井郁仁先生が発表
クローン病(CD)は、口腔から大腸まで、消化管のいたるところに炎症が起きる疾患です。慢性的な腹痛、下痢、発熱、体重減少といった症状がみられます。また、炎症の合併症として、腸管が狭くなる狭窄(きょうさく)や、腸管の壁に穴があく穿孔(せんこう)、直腸と肛門周囲に孔(あな)が開く痔瘻(じろう)などが生じます。
クローン病小腸狭窄に対して、近年、患者さんの体への負担が少ない内視鏡的バルーン拡張術(EBD)が行われるようになりました。内視鏡的バルーン拡張術は、治療の経験からは有効で安全な治療法であるといわれていますが、適応や手技の詳細は確立しておらず、いわゆるエビデンス(臨床試験などによる立証)が不十分でした。
福岡大学筑紫病院 炎症性腸疾患(IBD)センターの平井郁仁先生は、内視鏡的バルーン拡張術に関する有効性と安全性を明らかにすることを目指して、治療や研究を行っています。2011~2015年にかけて内視鏡的バルーン拡張術に関する多施設前向きコホート試験を実施し、その結果について、第9回日本炎症性腸疾患学会学術集会において発表しました。
内視鏡的バルーン拡張術がクローン病小腸狭窄に対して有効かつ安全である可能性
クローン病の小腸狭窄が重症化したときは、狭窄した腸管を切除し、残った正常な腸管同士を接続して縫い合わせる外科手術を行うことがほとんどでした。しかし、患者さんへの浸襲(体への負担やリスク)が大きいため、外科手術に代わる手段として、可能な場合は内視鏡的バルーン拡張術が行われるようになりました。
クローン病の小腸狭窄に対する内視鏡的バルーン拡張術とは、薬物療法などで炎症を抑えた後に、バルーンを付けた内視鏡を狭窄部位に挿入し、バルーンを膨らますことで拡げる手法です。
内視鏡的バルーン拡張術の適応症は、次のとおりとしました。
1.腹痛、腹部膨満感、嘔気(おうき)といった小腸狭窄の症状がある
2.長さが5cm以下の狭窄
3.瘻孔(ろうこう)や腫瘍などの穿孔(せんこう)合併症がない
4.深部活動性潰瘍がない
5.癒着や病変による高度な屈曲がない
これらの適応を満たす患者さんの登録を国内の多くの施設に呼びかけ、2011年~2015年の間に、全国23の施設から登録された95症例について調査。治療前と治療から4週間後における、腹痛、腹部膨満感、嘔気の症状の改善度を、10cm Visual Analogue Scale(VAS)※を使用して評価しました。
その結果、調査をした95例のうち、バルーンによる拡張が技術的に成功した症例数は89例(93.7%)で、そのうち、腹痛、腹部膨満感、嘔気の3つのVASスコアがすべて低下した人は、66例(69.4%)でした。治療前と治療から4週間後のVASスコアを比較すると、腹痛は4.9から1.1、腹部膨満感は5.1から2.0、嘔気は3.3から0.6と、いずれも有意差をもって低下しました。これは、内視鏡的バルーン拡張術の実施によって、小腸狭窄の腹痛、腹部膨満感、嘔気の3つの症状のすべてが改善したことを示しています。
症状が改善した例としなかった例とをさまざまな条件から検討したところ、狭窄の場所、数、程度、長さなどに、有意差は認められませんでした。一方、15mm以上拡張できた症例については小腸狭窄の症状が消失したため、拡張バルーンの有効拡張径の大きさが治療の成功に影響するのではないかと考えられます。
安全性については、治療によって出血および軽い限局性の腹膜炎が1例ありましたが、穿孔例は1例もありませんでした。したがって、内視鏡的バルーン拡張術は、安全性が非常に高い治療法であるとしています。
※Visual Analogue Scale(VAS):長さ10cmの黒い線(左端が「痛みなし」、右端が「想像できる最大の痛み」)を患者さんに見せて、現在の痛みがどの程度かを指し示す視覚的なスケールのこと。
クローン病小腸狭窄に対する内視鏡的バルーン拡張術の有効性を世界に向けて発信
この調査によって、クローン病の小腸狭窄に対する内視鏡的バルーン拡張術は、非常に有効であり、安全な治療法であることが示されました。一方、会場からは、より多くの施設・医師で安全にバルーン内視鏡拡張術が行える体制を整えるために、ライブビデオなどによるインストラクション(教育)の機会を求める声もあがりました。こうした意見に平井先生も同意し、「内視鏡的バルーン拡張術による治療が適している症例については、外科的手術を行う前に、検討すべき低侵襲治療の1つです。将来的にこの治療法を確立し、それを全国の内視鏡医に広めて、ひとりでも多くの患者さんがこの治療を受けることができるようしていきたい」と強調しました。
今回の内視鏡的バルーン拡張術の短期成績に関する解析結果は、世界的に有名なJCC誌(J Crohns Colitis 2018; 12: 394-401)に掲載されました。内視鏡的バルーン拡張術を受けた患者さんのうち、2年を経過しても、86.4%の患者さんが小腸の狭窄では手術を受けていないという報告もあり、治療経過に期待が持てます。
バルーン内視鏡は、日本では広く普及してきましたが、特に頻度が高い小腸狭窄に対しては海外ではほとんど行われていない技術です。平井先生は、「今後、長期的解析結果をまとめ、小腸狭窄に対する内視鏡的バルーン拡張術を、日本から海外に向けて発信していきたい」と述べました。
(IBDプラス編集部)
【特集】JSIBD 2018
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